河村尚子

河村尚子さんは、おそらくいま日本で売り出し中の新人ピアニストという位置付けでしょう。
幼少期からドイツに渡り、ハノーファー音楽芸術大学に進み多数のコンクールに出場したとあるので、ずっとドイツで育ったということなんでしょうか。
何であったか忘れましたが、わりに評判がいいというような噂も聞こえてきていました。

昨年11月だったか福岡でもちょうどこの人のリサイタルがあり、できれば行ってみようかと迷っていたのですが、結局どうしても都合が付かずに聴けませんでした。

するといいタイミングにNHKの放送で、昨年紀尾井ホールで行われた河村尚子ピアノリサイタルが放映されました。曲はシューマンのクライスレリアーナ、ショパンの華麗な変奏曲など。

解釈はオーソドックスでその点ではすんなり聴くことができました。
直球勝負的な演奏で、今どきよくあるつまらない小細工や名演の寄せ集め的なことをしないところは好ましく思えましたが、表現の多様性に欠けるのことがクライスレリアーナの2曲目以降から明瞭になりました。とてもよく弾き込まれている感じは受けましたが、残念なことにこの曲に必要な幻想性や文学的な奥行き、あるいは抽象表現がなく、あくまでもひとつの楽曲としてのみ捉えられているように思います。

また、テクニック的には今どきのピアニストとしてはごく平均的なレベルにとどまるというか、強いていうならややこの点は弱いように思いました。ミスが多かった点はまだマロニエ君は許せるのですが、基本的なタッチコントロールが不十分で、シューマンの音楽に必要な立体交差するような響きがまったく表現できないことは、この人の最も大きな問題点のように感じられました。

ドイツでみっちり教育を受けているらしいこと、また、内的な表現をしようと努めているらしいのはわかるのですが、曲の表情や息づかいなどの解釈あるいは表現の要素となるものが、ごく単純な喜怒哀楽の入れ替わりのみで処理されていくのもやや浅薄な感じが否めません。
幅の広さを持った音楽家というよりは、いかにもピアノ一筋でやってきた人という狭さを感じてしまいます。

ステージマナーも外国仕込みといわれればそれまでですが、いかにも大振りで、本物の音楽家でございというちょっとふてぶてしいまでの表情や所作が気になるところ。べつに、いつもニコニコして両手を前で握って可愛らしくお辞儀…などとはまったく思いませんが、それにしてもニヤリと会場を睨め回すような目つきや、両手は肩の付け根からブラブラさせるような動きは、いささか日本人の仕草としてはマッチングが悪いようにも思いました。

なによりも、ピアノの女性独特の気合いの入り方と怖さがあって、ポスターのあのあどけない少女のような雰囲気とはまったく違う人のように見えました。
この河村さんに限らず、頻繁に使う写真が実際のイメージとはあまりにもかけ離れているのは、見る者にはひとつの印象を覆すものとなり、却ってマイナスではないかと思いますが。

河村尚子」への2件のフィードバック

  1. SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    全く同感です。
    N響アワーでラフマニノフのピアノ協奏曲を弾いていたのですが、気持ちを入れて演奏しているのだということアピールするかのごとく顔の表情をオーバーに作っているけど、音がそれに追てきてない。音と顔の表情がチグハグで、神経が顔の表情作りに集中して指先に集中していないようで、全般に音が小さくなることが多かった。オーケストラの音にかき消されて殆ど聞こえないことがある。
    オーケストラをやっているのではなく、独りよがりでピアノを演奏しているようだった。

  2. SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    全く同感です。
    N響アワーでラフマニノフのピアノ協奏曲を弾いていたのですが、気持ちを入れて演奏しているのだということアピールするかのごとく顔の表情をオーバーに作っているけど、音がそれに追てきてない。音と顔の表情がチグハグで、神経が顔の表情作りに集中して指先に集中していないようで、全般に音が小さくなることが多かった。オーケストラの音にかき消されて殆ど聞こえないことがある。
    オーケストラをやっているのではなく、独りよがりでピアノを演奏しているようだった。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です