アヴデーエヴァが使うピアノ

最新の音楽の友誌によると、アヴデーエヴァの初来日の様子がグラビアで紹介されていました。

12月4/5日に行われたNHK交響楽団との共演については大変な褒め方で、以前ならこういう文章は違和感を覚えたはずですが、最近ではすっかり醒めて捉えるようになりました。音楽の友といえば日本で最も有名なクラシックの音楽雑誌ですが、それ以前に多くの広告などを背負った商業誌なのですから、カラーで紹介される巻頭記事は事実がどうであれ肯定的なものでなくてはならないということでしょうか…。

しかし、何事もこういう感じに素人が業界事情を察したような見方をしなくてはいけないことは、世の中の傾向としては好ましいこととは思いませんし、テレビのインタビューなどでもこうした言い方を事情通ぶって展開する一般人が増えたように思います。
こういう現実にだんだん馴れてきたマロニエ君ですが、さらにそこには意外な事実がありました。

NHK交響楽団との共演でアヴデーエヴァがスタインウェイを弾いた事情については、ブログの読者の方からコメントで「NHKホールはピアノの持ち込み使用ができないから」という、まことに不可思議な不文律があるためということを教えていただきました。NHKというのは一種独特の組織なので或いはそういうこともあるのでしょう。

ところが、急遽リサイタルが決定したらしく、12月8日、会場は東京オペラシティのコンサートホールで行われたようですが、そのリサイタルの写真を見ると、なんと、またしてもCFXではなくスタインウェイを弾いているのです。
まさか東京オペラシティまでピアノの持ち込みができないとも思えませんので、何があったのか考え込んでしまいましたが、これ以上は想像ですから遠慮します。

そもそもホールのピアノにまつわるルールというのは、ホールの備品であるピアノは専属の調律師以外には触らせない、あるいはピアニストが自分の好む調律師を希望する場合は調律のみでアクションその他には一切手をつけず、場合によっては専属調律師が立ち合いをする(変なことをしないように目を光らせている)という、まことに厳しいルールがありますが、しかしピアノそのものの持ち込みができないというのは普通ありません。

ホールのピアノ管理については上記のような業界事情から、こだわりのあるピアニストや技術者は自分のピアノを準備して、それを全国どこへでも運んでコンサートをやっているという少数派も中にはいるわけです。これならホールの楽器ではないのですから、誰が調整しようがホール側は口出しできませんし、そもそもホールは基本的にホールという場所と空間を時間貸しするのが商売なのであって、楽器の持ち込みなどには関与しない(できない)のが普通です。
こういうことを前提に考えても、アヴデーエヴァがなぜリサイタル(NHKホールではない会場)でもCFXを弾かなかったのかということについては、マロニエ君は業界人でもなんでもないのでまったくわかりません。
ただ、ひとつ不思議に思っていたのは、ショパンコンクールが終わった後も、ヤマハはCFXの広告にヤマハ演奏者が優勝という事実をひとことも伝えてきませんので、これはまたずいぶんと控えめなことだと思っていました。
むしろ「それしきのことでは騒がないよ」というお高くとまった沈黙のメッセージかとも思っていましたが、かつてリヒテルが存命中は何かと言えばリヒテルリヒテルと、うんざりするほど広告でそれを謳っていたころを思い出すとずいぶんな変わり様だと思っていたところでしたが…。

その音楽の友最新号には、中ほどにCFXに関する記事もありましたが、開発者の談によれば支柱から響板の強度を増して響きを重視、フレームも新設計ということにくわえて、従来のものより柔らかいハンマーを使っているとありました。これはまったく頷けることで、CFXはピアノが良く鳴るのに音がふくよかという一大特徴があると感じていました。

これはピアノ設計としては理想形であって、その逆、つまり鳴らない楽器を固いハンマーでカリカリと鳴らすのはまったくいただけないやり方です。ピアノに限った話ではありませんが、楽器というものはまずもって本体が楽々と鳴るという事、これに勝るものはありません。
またコンサートでCFXを聴いてみたものです。

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