緊張緩和

ピアノ演奏に関する本を読んでいると、おもしろいことが書いてありました。

ステージに上がる、あるいは人前でピアノを弾くときに緊張するのはマロニエ君のみならず、多くの人が体験されていることだと思いますが、この緊張という名の魔物は最悪の場合、せっかく練習で仕上げた演奏が本番では崩壊し、その力の半分も披露できないままメチャメチャになるという、努力が水泡に帰すことに繋がります。

緊張は精神のみならず、体の機能にも直接悪影響を与えるので上手くいかなくなるのだそうです。
まず緊張によって体そのものが硬直して動きが鈍り、血行が悪くなり、自宅では考えられないようなミスに繋がっていくようです。具体的には、途中で止まってしまう、暗譜を忘れてしまう、想像を絶するような甚だしいミスを犯す、曲が途中で飛んでしまうなどの「演奏事故」が起こるものです。

最近はスポーツの分野でも、本番での緊張に関する研究が進んでいるらしく、メンタルトレーニングの重要性が広く流布されているそうです。
それもそのはず、フィギュアスケートのジャンプなど、その技術を習得するだけでも並大抵ではないはずですが、それを衆人環視の本番で確実に決めなくてはなんの意味もないわけで、本番に強くなるという訓練も相当に重要だろうと思います。

この本に書かれているピアノ演奏上の対策は、ごく一般的なことではありましたが、対策として関連した3つの方法が紹介されていました。
1つめはどんな体操でもいいから本番の直前に柔軟体操をするというもの。全身がうまくストレッチされると気分が良くなり、血行が良くなり、リラックスできるとか。
2つめは諸事情で直前の柔軟体操ができそうにもない状況では、体中に力を筋肉を緊張させ、その後一気に力を抜くというのを数回繰り返すと、緊張した筋肉部分の血行が良くなる。肩を上げた状態で20〜30秒保って一気に力を抜くと、肩こりも取れるしとても効果的だとか。
3つめは大きく息を吸って、しばらく止めてから一気に息を吐くということを数回繰り返す。あまり急いでやってはいけない。あくまでもゆっくりやること。

このほかには精神安定剤を服用というのもひとつの方法としてありました。
知り合いの医師によると、最近の安定剤はとてもよくできていて副作用もなく、べつに精神疾患でなくとも、あがり性の人が会議の前とか結婚式のスピーチの前などにポンと一錠飲むという、至って手軽な服用の仕方をする人も最近は非常に多いのだそうです。

ついでながら、この本でも紹介されていることですが、大半の人が人前でのピアノ演奏に緊張を覚える中、「緊張しない人」というのも少数は存在するらしく、その特徴は「人に注目されるのが好きな人」なんだそうです。こういう人は緊張というよりも、むしろ至福の時なのでしょう。
咄嗟にいくつかの顔が脳裏に浮かび、なるほどなあと納得して、思わず笑ってしまいました。

いやはや、マロニエ君からみればこんな人は、ほとんど外国人にも匹敵する異人種のようで、その精神構造の違いたるや驚くばかりですが、一面においては羨ましいのも事実です。
緊張するのも快感に酔いしれるのも、根拠や実体があるものではなく、要は本人の認識の問題ですからね。

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