最近、初めてジョン・フィールドのピアノ協奏曲というのを聴きました。
実際にコンサートで演奏されることはマロニエ君の知る限りではありませんし、録音もまずめったに目にすることはありません。
ジョン・フィールドといえばショパンよりも先にノクターンを作曲したことで知られていますが、マロニエ君もノクターン以外の作品は聴いたことがありませんでした。
ピアノのノクターンというジャンルの創始者であるフィールドは、その一点でも音楽歴史上にその名が残る作曲家ということになるでしょう。
彼はショパンよりも28歳年長のアイルランド人でピアニストでもあり、クレメンティに学んだとありますが、残された作品は多くはないものの、大半がピアノ曲という点もショパンに共通するところでしょうか。
ところがピアノ協奏曲は実に7曲も書いており、ちょうど良いCDを見つけたのでものは試しということで購入したわけです。
4枚セットのピアノ協奏曲全集で、7曲の協奏曲を番号順に聴いていきました。
ところが感想を言うとなると、ぐっと言葉に詰まってしまうような、そんな作品でした。
曲調はどれも軽やかで親しみやすい旋律で、彼のノクターンに通じる旋律の特徴や和声の流れが見て取れますが、そんなことよりも「これはどういう音楽なのだろう…」というのが一番正直な印象です。
第1番以外は19世紀初頭の20年間に書かれていて、当時の社会の音楽に対する価値やニーズがどのようなものであったか、詳しいことはわかりませんが、なんとなくその時代、すなわち産業革命以降の市民社会の勃興という時期にうまくはまった、娯楽音楽のような気もするわけです。
ピアノ協奏曲というわりには、ピアノの書法もこれといった革新性や挑戦的なものはなく、技巧的なものでもさらになく、オーケストラをバックにいつもキラキラとピアノの音がしていて、今風に言うなら癒し系というか、なんだか昔の少女趣味的世界を連想するようでした。
それでも、ところどころに見られる独特のピアノの輝きは、おそらくそれまでには存在しなかった種類のもので、この分野の大天才であるショパンの到来をフィールドが地ならしして待っている、いかにもそんな時代の気配が聞こえるてくるようでした。
音楽といえばドイツ音楽偏重で、まだベートーヴェンが生きていて作品も中期から後期へ移ろうとしていて、いよいよ音楽を形而上学的芸術たるべく執着し、こだわり続けていた、そんな時代へのアンチテーゼのごとく、なんともあっけらかんとした娯楽的音楽だったのかもしれません。
正直いって真の深みとか芸術性といったものはあまり感じられませんが、どこかチャイコフスキーが登場する以前のバレエ音楽のようでもあり、フィールドはロシアなどでも高い人気を誇ったようでもあり、これはこれでひとつの時代の中で存在価値がじゅうぶんにあったような気がします。
とくにショパンに対しては、かなり作曲のヒントを与えた作曲家のように直感的に感じられましたので、もしそうだとするならば、その点は非常に重要な役割を果たした人だという気がしました。
どんな偉業であっても、もとを正せばこの人なしではあり得なかったという事例がありますから。
もしこの想像がまちがっているなら、ショパン大先生には申し訳ない限りですが。