せっけん

いつごろからだったかはよく思い出せませんが、世の中が健康ブームになるにつれていろんなものに「無添加」という文字が溢れるようになりました。

石鹸もそのひとつで、むかしは香りの強い化粧石鹸が高級品の代名詞で、化粧品会社が発売する香水をまぶしたような香りの強い高級石鹸はむやみに立派な化粧箱の中に恭しく鎮座し、いやが上にもありがたいもののように珍重されました。それにならって普及品もそういう方向を目指すようになり、有名な化粧石鹸の詰め合わせは御中元や御歳暮の代表格にもなって、日本列島を隅々までさかんに届けられ、皆それを愛用していた時代がありました。

しかし、無添加ブームは当然のように肌に直接用いる石鹸にもいち早く登場し、地味ながらも、良質のからだに優しい製品としてじわじわとその勢力を伸ばします。とくに福岡県には無添加石鹸の大手の会社があるので、今でこそ珍しくないものの、ひと頃は他の地域ではデパートや特定のショップなどでしか買えなかったようですが、福岡ではスーパーなどでもこの会社の製品がさりげなく買えるという恵まれた状況でもありました。

さて、マロニエ君の友人にはいろんなものに呆れるほど詳しいのが何人もいて、ジャンルも広範で、彼らがもたらしてくれる情報はいつもながら非常に中立的かつ専門性にあふれ、彼らと会うことは勢い情報収集にもなるわけです。そういうことに疎いマロニエ君にしてみれば、本業でも専門家でもないくせに、いつの間にそんな深い情報の数々を仕入れているのか、不可解きわまりない事ばかりです。

あるとき、その無添加石鹸の話に及びましたが、そのうちの一人が言ったことが衝撃的でした。
当時マロニエ君は、ただ単に洗顔用か何かを購入して入浴などに使っていたのですが、ほかに浴用、キッチン用、赤ちゃん用、洗濯用など何種類もの用途に合わせた製品があり、当然パッケージも違えば、形や大きさも微妙に異なっていました。
ところが、その友人が言うには、なんと中は全部同じものだと自信を持って言うのです。…まさか!!

曰く、ただ単に一種類の石鹸だけを販売して、「これを生活の中のありとあらゆる用途に使ってください」といっても、消費者の心理はなかなかそうはいかないものらしいのです。だから便宜的に使用目的別のパッケージや形を変えて、さもそれぞれの目的に適った製品であるかのようにして販売されているにすぎないと言い切ります。
成分を見ると、たしかにどれも純石けん分98〜99%の無添加石鹸となっており、彼が言うには、メーカーのいう防腐剤、色素、香料などの化学物質を一切含まない無添加の石鹸となると必然的にひとつのものになるわけで、結局、基本型であればどれを買っても同じというのです。

しかし、襟やそでの汚れも落とすなどと書かれた洗濯用と、赤ちゃんや女性の洗顔にも使う石鹸が実は同じものというのは、ちょっと聞いただけではなかなか受け容れることができませんでした。
そこで、疑うわけではないものの、一度自分で確認してみたくなり、石鹸会社のお客様相談窓口のようなところに電話してこの事実を確かめてみました。
するとなんと、友人が言うのはその通りで、電話に出た女性はそのことを認めました。ただし、言葉には覇気がなく、なにやらしぶしぶ肯定したといった感じではありましたが。
ともかく、これではっきりしました。

いらいマロニエ君は、浴用には同社の洗濯用という大型の石鹸を使っていますが、なるほど普通サイズの浴用や洗顔用と使い心地もまったく同じで、だったらこれがよほどお得だということもわかり、ずっとそうしています。
それからというもの、無添加石鹸の製品ラインナップのからくりに興味が出て、他社の製品も観察してみるようになりましたが、別会社でもやはり洗濯用/キッチン用/ふきん洗いなどともっともらしく書かれてはいても、成分は99%もしくは98%の「純せっけん分」となっていて、これといった違いがないことがわかりました。

その一方で、あまり使わなくなった化粧石鹸がいまだに物置などにゴロゴロあって、使わないのももったいないので、洗面所の手洗い用に使ってみることにしました。ところが、無添加石鹸を使い慣れていると、これはかなり肌に厳しい石鹸で、数日使っただけでも手の肌がみるみる荒れてくるのがわかり、また無添加に戻しました。
そのかわり、変な使い方ですが、化粧石鹸をスポンジにつけてフライパンなどの油汚れを洗ってみると、グングン油が落ちていくことがわかりました。
やはり脱脂力はかなり強力なようですが、むかしは平気でこの手の石鹸で全身を洗っていたんですから今から考えると驚きですね。

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