今年のグラミー賞の受賞者には日本人が4人含まれていたそうで、一昨日のテレビはこれを大いに報じているようでした。
そのうちの一人が意外なことにピアニストの内田光子さんで、対象となったディスクはクリーヴランド管弦楽団を振り弾きしてやったモーツァルトの23番と24番の協奏曲だそうで、へええ、と思いました。
グラミー賞というのは言葉だけは良く耳にするものの、それがどういうものかは恥ずかしながらマロニエ君はよく知りませんでしたので、ネットで調べてみると、要するにアメリカの音楽ビジネスに貢献したアーティストを讃える目的に作られたもので、分かりやすく言うなら、日本でいうレコード大賞みたいなもののように解釈しましたが、もしかしたら間違っているかもしれません。
まあ内田光子さんが受賞したことはおめでたいことですが、マロニエ君はこのディスクは持っていますけれども、そんなに売れるほどのものとも、内容が際立って優れているとも正直思えないものでしたのでちょっと意外でした。
内田光子の同曲でいうと、20年以上前にジェフリー・テイト指揮のイギリス室内管弦楽団とやったシリーズのほうが、マロニエ君としてはアンサンブルの軽妙かつ緻密である点は断然上だし、覇気も高揚感も抜群で、はるかにこっちが優れていると思っています。
モーツァルトといえばウチダといわれた人だけに、あの名演があるにもかかわらず彼女が敢えて再録するにはそれなりの芸術的理由があるのだろうと思って大いに期待して買いましたが、いささか肩すかしを食らった印象でしたので、それに続く同じメンバーによる20/27番はまだ購入もしていません。
受賞の理由があまりよくわからなかったものの、ひとつにはクリーヴランド管弦楽団というアメリカのオーケストラと演奏したことが有利に働いたのでしょうか?
蛇足ながら、内田光子がモーツァルトで再録すべきは、協奏曲ではなく、ソナタ全集のほうだと断じて思いますし、同様のことを誰だったか有名な評論家も言っていましたから、やっぱり!と激しく思った記憶があります。
ソナタ全集は、どう聴いても、彼女の本領が発揮できている演奏とは言い難く、その後、サントリーホールで行われたリサイタルのライブCDは、この全集とは比較にならない素晴らしさがあります。
ところが本人はこのソナタ全集で充分であるという認識らしく、これは到底納得できるものではありませんが、えてして芸術家の自己評価には、ときにびっくりするようなことを言っていることがあるもんです。
アルゲリッチもかつて、あの名演の誉れ高い、アバド/ロンドン交響楽団との共演によるショパンとリストの協奏曲の録音について、「あれは嫌い!」と言下に退けてこの演奏に心酔してきたファンを驚かせた事がありました。
内田光子でいうと、ザンデルリンクの指揮によるベートーヴェンの協奏曲全集も、肝心の3番4番の出来が悪いのはいまだに納得できないというか残念というか、こういうものこそ、やり直しをしてほしいと思うのですが、なかなかこちらの思った通りにはいかないようです。
4番についてはメータとやったライブのDVDはこれまたCDとは別物のような素晴らしい演奏でしたから、そういう演奏ができる人でさえ、必ずしも最高の録音を残し切れていない状況は、我々からするとやきもきさせられます。
まあ、なんであれ、日本人ピアニストが世界で認められるのは結構なことです。