山田耕筰のピアノ曲

山田耕筰といえば明治から昭和にかけて活躍した日本の大作曲家ですが、あまりにも歌曲で有名となったためか和風の人というイメージがありますが、本来は西洋音楽を日本に紹介し、自身もドイツなどの留学経験から本物の西洋音楽を身につけ、終生音楽に身を捧げた筋金入りの音楽家だったようです。

彼が数年間留学した第一次世界大戦直前のドイツでは、R・シュトラウスやニキシュが頻繁に指揮台に立っているような時代だったようで、そのコンサートにはしばしば通ったといいますし、なんとカーネギーホールでは自作の管弦楽曲を演奏したり、ベルリンフィルやレニングラードフィルなどの指揮台にも立ったといいますから、童謡や校歌ばかりを作っていた人とだけ思うのは少々間違いのようです。

その山田耕筰の作品は、歌曲は1000曲を超えるほどもあるそうで、そのためか歌曲があまりにも有名ですが、実際にはオペラや交響曲/交響詩、室内楽曲などに混じって、わずかながらピアノ曲を残しています。

最近、その山田耕筰のピアノ作品全集というCD二枚組を購入しましたが、主にはプチ・ポエムという山田耕筰が創始したというジャンルの小品集などが中心となり、ほかにも様々な作品が含まれていました。

「スクリャービンに捧ぐる曲」というのがあるように、この中の何割かの作品は明らかに後期のスクリャービンの影響を受けていると思われるものが散見できますし、どの作品も透明な空間の広がるような非常に詩的で幻想的なものが多いのは意外でした。
聴いていると様々な種類の光りがあちこちから差し込むようで、その気品ある作風は予想できなかったものばかりでとても驚かされました。
少なくともあの「荒城の月」とか「からたちの花」などからはかけ離れた抽象性を持ち、本格的な西洋流の近代音楽というべきものばかりで、あらためて偉大な音楽家だったということが偲ばれるようです。

CDの解説によると、これは世界初の山田耕筰ピアノ作品全集なのだそうで、なんと演奏者は日本人ではなく、イリーナ・ニキーティナというロシアのピアニストで、1994年にスイスで収録されているものです。
レーベルはDENONで、録音スタッフには数人の日本人が関わってはいるようですが、あくまでもヨーロッパ人の演奏によるヨーロッパで収録された山田耕筰のピアノ曲アルバムという点が非常に面白いと思います。

ちなみに使用ピアノに関しては一切記述がありませんが、その音はまぎれもないスタインウェイそのもので、しかも現在の新しい楽器からはほとんど聴くことの出来なくなってしまった、重厚な深みと密度感のある瑞々しいその美しい音色には、聴いていて思わず陶然となるようでした。
しかし決して古い時代のピアノではなく、1970年代までのスタインウェイはまたちょっと違った種類の音を出しますから、おそらくは1980年代後半〜90年前後に作られた楽器だろうと思います。
この時代のスタインウェイは、新しいトーンの中にいかにも上質な響きと透明感があり、それでいて華麗さと現代性も兼ね備えているという点で、マロニエ君はとても好きな時代の音色です

ヴィンテージのスタインウェイを称賛する人達から見ればおそらく違った意見になるでしょうが、現代のスタインウェイとしてはひとつの理想型を極めた数年間で、この30〜40年間で見ればひとつの絶頂期だったように思います。

美しい曲に美しいピアノの音色、それに優れた演奏と録音とくれば、聴いているだけで幸福な気分になれるものです。

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