ヴァイオリンの虚実

ヴァイオリンの謎に迫りだすとキリがありません。
過日もオールドヴァイオリンの虚実入り混ざる話を書きましたが、ヴァイオリンの真価というのも、マロニエ君などはまったくの門外漢だけにますます怪しげな闇の中にあるような気がしてしまいます。

例えば本を何冊か読むと、書いてあることがまるでバラバラなわけです。
今や億の世界に突入したストラディヴァリウスなどが、300年も前に作られた楽器であるにもかかわらず、なぜそれだけの価値があるかということです。

ヴァイオリン製作は、才能があって正しい修行を積んだ人なら一人で完成させることのできる、構造的には非常にシンプルな楽器ですから、シロウト考えではそれを凌ぐ楽器が出来ても不思議はないとも思うのですが…。

しかし数ある新作ヴァイオリンよりも優れたオールドヴァイオリンのほうが良いとされる理由は、実際に演奏されると美音なのはもちろん、表現力に優れてバランスが良く、遠鳴りするというのが主なもののようです。
あるいは、新しいヴァイオリンは機能的には優れていても、木が新しいところがオールドには敵わず、これが100年か150年経てば良くなるかもしれないという、甚だ気の遠くなるような意見もあります。

では、それだけの時が経てばストラディヴァリウス並の楽器に熟成される可能性があるのかという点では、絶対にないと言いきる人も中にはいますし、はたまた、いかに貴重なオールドヴァイオリンといえども、実際には楽器が衰えており、耳元では妙なる音色を紡いでも、コンサートヴァイオリンとしてはもう使い物にはならないのが実体だという人がいたりもします。
こんな調子ですから、どれが真実なのやら見当もつきません。

さらに驚くべきは、現在のクレモナ(イタリアのヴァイオリン製作の聖地。かつてのアマティ、ストラディヴァリ、グァルネリなども同地の職人)にも名人級の制作者が少なくとも数人いて、これらの職人の作り出すヴァイオリンはすでにオールドヴァイオリンと同等もしくはそれ以上の能力があり、実際にそれをコンサートで演奏したり、レコーディングにも使っているヴァイオリニストも少なくないというのです。

これらの人気職人ともなると、購入しようにも予約でいっぱいだそうで、発注しても出来上がるのは数年先というのが普通だそうです。
中には、なんと持っていたストラディヴァリウスを手放して、これらの新作ヴァイオリンに変更する演奏家もいるのだそうで、その理由はくたびれたオールドヴァイオリンよりも音量があり、弾きやすく、歴史的名器に決して引けをとらない美しい音色をもっているから、というのですから、もうなにが本当のことなのやら、いよいよわからなくなります。

値段のことははっきり書いてはありませんが、クレモナの新作ヴァイオリンの一級品でも300万円前後のようで、弓とセットで500万ほどというのが一応の相場のようだと見受けました。
オールドはすでに億の世界といいますから、その値段の差は途方もないもののようですが、普通はせいぜいそのへんがヴァイオリンの高級品として妥当な値段じゃないかという気がして、妙に安心するというか納得できたという気がしています。

貴重品につけられる価格は、ケタも違えば、その先に待ちかまえる虚実と闇も、同等に広がっていくような気がします。
こういう世界を垣間見ると、ピアノはたとえどんな名器名品といってみたところで、まだ大半は機能・性能が優先され、あとは、音というよりも手のかかったアートケースの価値などであり、しょせんは魔物の棲む世界ではないようです。

ヴァイオリンの虚実」への1件のフィードバック

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    バイオリンの価格ですが、私の家内は東京の某学生
    オケでコンミスやっていまいたが、弓だけで450万です。バイオリン本体は怖くて値段は聞いていません。
    一流音大生や早慶東大の学生オケのコンマス
    は家内のよりもっと良い楽器を持っていたといっています。
    巷にはストラディバリの由来がはっきりしたものの他に
    彼の工房出身の近いものが多数ありますし、
    糸巻き、力木や魂柱、こま、ニスなど補修を受けていないバイオリンは皆無です。さらにネックや指板は音域
    を拡大するために延長改造されていて完全なオリジナルなプロポーションを保っているのはメトロポリタン
    博物館などにごく少数ある程度と思います。
    したがって由来よりも最終的には良い音色で音が
    大きいものが高いということです。そういう楽器は
    やはりニスの色が濃いようです。
    過去芸大で偽ストラディバリ事件がありましたが、
    あの楽器を弾いた人間はみんな良い楽器で高い
    ものだろう。ストラディバリでなくても欲しいと思った
    とのことで、メディアと演奏者の感覚とはかなり
    乖離があります。
    残念ながら良い楽器が銀座の楽器店に鎮座している
    わけではなく、他の演奏家がさらに良い楽器を入手
    したときに譲るという形(業者が入る)で、しばらく
    借りて気に入らなければパス、あるいは借りたまま
    など業界はきわめてグレーですが、最終的な判断
    基準はバイオリン一丁でホールの後ろまで音
    が通るか、ということでシンプルです。その点ピアノも
    同じかもですね。

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