クリダのリスト

フランス・クリダという、その名の通りフランス人の女性ピアニストがいます。

もうずいぶん昔のこと、日本にも度々やってきてはよく演奏していましたが、当時子供だったマロニエ君はこの人のことはあまり好きではありませんでした。

というのも、演奏云々の以前に、とにかくリストばかりを弾くピアニストだったので、そのころからリストはあまり好みではなかったために、リスト弾きという技巧一点張りなイメージが子供心に強い反発を感じていましたし、彼女のことをリストだけを弾く下品なおばさんぐらいにしか思っていなかったんですね、当時は。

かなり何度も日本に来た印象はあったのですが、ある時期からパッタリと来なくなくなり、次第に名前も聞かなくなってしまい、その後どうしたのだろうと思っていましたが、どうやら後進の指導にあたり、最近はコンサートもあまりやっていないようだということがわかりました。

最近そのフランス・クリダお得意のリストのCDが14枚組になって発売されましたので、いろいろと聴いてみたい曲もあったし、彼女の演奏の記憶はほとんどないので、果たしてどんな演奏をしていたのかという興味もあり、これを購入して、ここ最近ずっと聴いています。

内容はリストの主要なピアノソロ曲をそれなりに網羅したもので、一枚目の巡礼の年を聴いただけでオッと思いました。
最近のリスト演奏からは聴かれない、深い落ち着きと、作品に対する心地よい自然さがあるのがまずもって意外でした。
その後も1枚のディスクを数回繰り返しながら聴き進んで、まだ全部は終わっていませんが、その全体に流れる一貫した演奏のありかたには深い感銘を覚えました。
同時に、むかしむかし、マロニエ君はクリダに対して大変な誤解をしていたことに気がついて、いまごろ彼女に申し訳なかったような気になってしまいました。「リスト弾き」…それだけで背を向けていたのです。

リストの本当の素晴らしさに気がついたのは、ずっと後年になってからのことですが、一握りのお祭り騒ぎのような、聴いているだけで恥ずかしいような有名曲の陰に隠れるように、なんとも精神性の高い奥深い作品がいくつも隠れていることを知るようになりました。しかし、それらを本当に満足のいく演奏をしているピアニストのなんと少ないことかというのも、偽らざる印象です。
巷では高い評価を受けているラザール・ベルマンもあまりマロニエ君の好みではありません。

その点、クリダは本当に適度な重厚さと自然さが見事に調和し、リスト本来の素晴らしい部分を引き出すような美しい演奏をしていて、冒頭に述べた下品さは微塵もない見事なもので驚きました。

これに比べると、先月のブログに私的で宗教的な調べのことで書いたブリジット・エンゲラーは、それなりの評価があるようですが、てんで奥行きがなく、クリダを聞いた耳には霞んでしまいました。

こんな昔のピアニストで、いまごろその凄さを知って驚くなんてことは、まずないことなので、すごく得をしたような気分です。

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