ル・サージュとブラレイ

二人のフランス人ピアニスト、エリック・ル・サージュとフランク・ブラレイによるモーツァルトの2台と4手のためのピアノソナタ集を少し前にCDで購入していたので、何度か繰り返して聴いてみました。

二人とも今が旬とも言うべき共に40代で、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポンの常連でもあるようです。

このCDで注目すべきは、120年以上前のピアノ、1874年/1877年のスタインウェイを使っているという点で、これはブラレイのこだわりによるものだとか。

現在のスタインウェイとは大いに違って、ひじょうにまろやかな音色が特徴ですが、さりとてフォルテピアノのような古くさいというような音ではなく、いまさらのようにピアノは一世紀以上もの間ほとんど進歩していないと思わせらます。
尤もそれをいうなら、ヴァイオリンなど300年ですから、いずれの楽器も基本的にはもはや完成され尽くして、ほとんど改良の余地がないのは間違いないようです。

とはいえ、スタインウェイとしてはこの時期の楽器は、まだまだ過渡期にあるもので、決して完成されたものではありませんが、それでも野暮ったさのない、美しい華のある音を聴かせる点ではさすがです。

それでいて、いつも感じることですが、古い楽器の音色というのはなんと心地よく耳に疲れないものかと思います。

集中して聴けば、発生した音が減衰する際に、ゆらゆらとゆらめく点などがいかにも昔の楽器といえばいえるでしょうが、新しいニューヨークスタインウェイなどはいまだに若干この特性を残しているので、こういう点でもニューヨーク製のほうに本源的なピアノの要素を見出して好む人も多いようです。

ここで使われたピアノは2台ともクリス・マーヌというピアノ蒐集家の持ち物で、この収録のために貸し出されたものだそうですが、これと同じ型のスタインウェイが、実は福岡市博多区のステーキ屋に置いてあるのをふと思い出しました。

ずいぶん前に見に行ったことがありますが、さりげなく19世紀のスタインウェイのコンサートグランドが、ステーキレストランの一角にポンと置いてあるのは、なんとも不思議な光景でした。
ステーキといえば油がつきものですが、ちょっと大丈夫だろうかという気になってしまいましたが…。

CDを話を戻すと、演奏そのものはいかにも爽快ではあるけれど、やや落ち着きのないところが散見されるのは、このフランスの実力派二人にしてはいささか残念な点だと思いました。
モーツァルトは基軸のブレがあるとたちまち歪んでしまう油断の出来ない音楽なので、この点はプロでもよくよく留意してほしいものです。

信じがたいほど多作なわりには、たった1曲しかないモーツァルトの2台のピアのためのソナタ(KV448)は、一昔前は「頭が良くなる音楽」ということで受験生などがこれを聴くのが流行りましたし、最近では例の「のだめカンタービレ」でのだめと千秋先輩が一緒に弾く曲としてすっかり有名になったようですね。

互いに同一の音型を次々にやりとりするところなどは2台のピアノならではの聴き(弾き)どころで、まったく対等の二人が織りなすめくるめく音楽は連弾には望み得ないもので、まさに左右に飛び交うテニスボールのようです。

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