決断の勝利

海外からピアノを買った知人の部屋に、ピアノ拝見でお邪魔しました。

彼はこのピアノ購入を決断したために、連動してグランドピアノが置ける部屋探しまでする事になりました。
「グランド可」の物件は多くはなく、これだというものに出会うにはそれなりに時間がかかったようですが、ようやくにしてその条件を満たす物件が見つかり、まず先に人間が引っ越しをして、そこへ防音シートなど準備万端整えた後にピアノの搬入となったようです。

思ったよりも部屋数の多い広々とした住まいでしたが、その一室にスタインウェイのグランドがスラリとした足を垂直に伸ばして端然と置かれています。
このピアノは製造からわずか10年ほどしか経っていない上に、むこうではギャラリーのようなところに置かれていたらしく、あまり弾かれた様子もない感じでした。内外共に非常にきれいで若々しく、人間でいうならせいぜい小中学生ぐらいのピアノという印象です。
きちんと管理して、途中で大修理をおこなえば100年は楽にもつといわれるスタインウェイですから、まさに一生モノというわけです。
このピアノはニューヨーク製のスタインウェイですが、ドイツのスタインウェイにはないヘアーライン仕上げというラッカーの艶消し塗装の上に、細い擦り線が入るように半艶出し仕上げされたもので、これはこれでなかなかの風合いがありました。

折しもこの円高の時期とも重なり、彼はとても良い買い物ができたようです。
本来なら、ピアノはできるだけたくさん弾いて、自分の納得のいく一台を探して買うというのが、ピアノ購入の常識というか、いわば正攻法のやり方です。
しかし、関東圏や浜松周辺にでも住んでいればそれも可能でしょうが、それ以外のエリアに居住する者にしてみれば、それは現実的にたやすいことではありません。精力的に見て回る意気込みはあっても、尋ねるべき店のほうがそれほどないからです。

そうなると、イレギュラーな手段ではありますが、信頼できる技術者の導きによってひとっ飛びに海外からいいものを割安に輸入するというのも、いささか大胆かつリスキーではありますが、ひとつの方法だと言えそうです。
もちろん、これは誰にでもおすすめできる方法とは言いませんし、ある程度の決断力と度胸と、結果に対しても一定の覚悟を持てるような人でなくてはなりません。
あとは仲介者を信じて、届いたものに対しては寛大な気持ちでそれを受け容れ、技術者と共に楽器を育てていくぐらいの気構えがあれば大丈夫だと思いますが。

今回はマロニエ君の見るところでは大成功で、望外の価格(それでも大金ですが)で希望するピアノを手に入れることができて、いまや彼は電子ピアノとスタインウェイを使い分けながら、質の高いピアノライフを満喫しているようです。

もう一人は、マロニエ君は直接会ったことはありませんが、ネットで知り合った人で、フランスからプレイエルの修復済みのグランドを、これもまたある技術者を通じて、自分は現地に行かず情報だけで手に入れたようですが、結果的には思った以上の美しいピアノが届いて大変満足しているようでした。

というわけで、何度も言いますが、ピアノは本来は必ず自分で弾いてみて、タッチや音などをよく確認・納得して買うものですけれども、中にはこんな禁じ手のごとき思い切った方法も、あるにはある…ということです。

マロニエ君にいわせれば、いささか暴論かもしれませんけれども、はじめに確かな物さえ手に入れておけば、あとは信頼できる技術者の手に委ねれば、ピアノはだいたい満足のいくような状態になるものだと思います。
良いピアノほどいろんな可能性をもっているもので、それを自分に合ったものに仕上げていけばいいのですが、もちろんそれでもピアノがもって生まれた基本は変えられませんから、基本の部分が気に入らなければ打つ手はありませんが。

ただ、逆にいうと、あれこれこだわったつもりで、気に入ったピアノを納得して買った人(中にはわざわざ浜松まで選定に行ったなんて自慢する人もいますが)でも、購入後の管理ときたらかなり好い加減で、せいぜいたまに調律をするぐらいが関の山みたいなケースが多いのも事実で、こうなると、はじめの輝きは早々に失われてしまい、結局半分眠ったような平凡なピアノになってしまうだけです。

それにしてもピアノを買うというのは、今どき、そうはないようなロマンティックなことですね。

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