ようやく今日あたりになって、だいぶ声が戻ってきました。まだかなり制約があり、ちょっと続けて話すとすぐに咳き込んでしまいますが、ともかく必要最小限の会話ができるようになっただけでも助かります。
さて、つい先日、満杯になっている本棚を少し整理しようと、処分する雑誌などはないか見ていたところ、たまたま雑誌「ショパン」のずいぶん古いのがあって、何気なく見ていたのですが、サイズも現在のものよりひとまわり小さいし、カラーページなども少なく、現在のものよりも「読ませる」ものであったことがわかります。
とくに、出てくるピアニストもみんなまだ若くて、次々に有名どころが惜しげもなく登場しては特集だの対談などにどんどん精力的に出てくるのは、いかにも時代の違いを感じるとともに、発言内容も今に較べると自由でおおらかだった時代を感じさせるところです。
自分の好みや考えを堂々と述べていますが、いまならすべてカットされるでしょうし、そもそも言い出しもしないことでしょう。
表紙はアンネローゼ・シュミット、ニコラーエワがまだ生きていてインタビューに答えていたり、ポリーニがようやくシューマンの交響的練習曲をリリースして広告がでていたり、アトラスピアノが健在だったり、ギリシャ出身の天才少年スグロスの来日公演があったり、ダン・タイ・ソンがショパンの優勝からようやく二度目の来日決定というような時代です。
懐かしさとともにパラパラとページをめくっていると、今から思うととんでももないものが目に飛び込んで卒倒しそうになりました。
これこそ時代が変わったということをまざまざと見せつけられるもので、現在の社会規範からすればこれはほとんどポルノか犯罪にも匹敵するものでした。
それは「都道府県別 全国ピアニスト・ピアノ教育者名鑑」なるもので、延々23ページにわたる極小文字にて、全国の2000人近いピアニストと先生の名前(旧姓・本名なども付記されている!)、住所、電話番号、生年月日、出生地、最終学歴、勤務先などがすべて事細かに、包み隠さず掲載されているのには仰天しました。
もちろん中村紘子、園田高広、花房晴美などの有名どころも、考えられるすべてが見事に網羅されており、マロニエ君の直接の恩師も二人がちゃんと掲載されていました。
「時代が違う」とはまさにこのことで、一般人でも個人情報が厳しく制限されている現在からは、考えられない極秘情報が満載でした。移転さえしていなければ、すぐにも電話もできるし、カーナビ入力して自宅を尋ねることも可能なわけです。
こんなことが平然と許されていて、だれもが異常だとも何とも思わなかった時代がひどくなつかしく思われました。
ちなみにこれは昭和59年(1984年)の発行ですから、27年前の刊行物というわけです。
この27年という年月をどう見るかにもよりますが、やはりあまりにも急速な社会の変化が激しすぎたことは間違いないという気がしますし、それだけの変化に順応していくのはひとりの人間としてかなり厳しい事というのが正直なところです。
仮に100年かけて、これぐらい変化をしていくなら、まだいくらか人間が人間らしく、誇りと余裕を持って生きていくことができるだろうと思いますが、なにしろそのテンポが急激すぎるようです。