東日本復興支援チャリティということで、アルゲリッチが昨年暮れに東京で行ったシューマン&ショパンの第1ピアノ協奏曲がCD化されて発売されています。
参加したアーティスト全員が録音印税を放棄して、収益を楽器や楽譜を失った被災者の復興支援のために寄付するという目的があるのだそうで、こんな思いがけないことからまたアルゲリッチのコレクションが一枚増えることになりました。
このCDは、震災で被災したものの早期に復旧を果たした(株)オプトロムの仙台市の工場でプレスされているというところにも大きな意義があるようで、かつて公演のため訪れたことのある仙台でこのCDが製造されることに、アルゲリッチは東日本復興の兆しを感じているのだとか。
アルゲリッチはカルロス・クライバーと並ぶ大変な日本贔屓で、最近読んだ彼女の伝記でも、何事も気むずかしい彼女が、こと日本のことになると一転して従順になるとありました。すでにアルゲリッチはパリをはじめ、ヨーロッパのあちこちで日本の災害支援のためのチャリティーコンサートを開催しており、多くの友人音楽家が集まっては日本のために素晴らしい演奏を繰り広げているようで、なんともありがたい話です。
さてこのCDですが、アルゲリッチの演奏に関しては、マロニエ君の部屋で宣言しているようにこれに一切触れるつもりはなく、ただ、いつもながらのすばらしいものとだけしておきます。
ただ、その他の点についてはせっかくのCDにもかかわらず残念に感じたことがありました。
まずは共演のアルミンク指揮/新日本フィルの演奏が粗っぽく品位に欠けて、とてもこの稀代のピアニストの精妙な演奏に見合ったものではないという点でした。
新日本フィルは昔は小沢征爾がよく振っていて、アルゲリッチも彼の棒のもとにたびたび共演していましたし、その後は今回の会場であるすみだトリフォニーホールのような立派なホームグラウンドまで与えられて、さぞや素晴らしく成長しているものと思っていたのですが、この演奏クオリティはまったくもって意外でした。
マロニエ君も東京在住時代は、新日本フィル、小沢征爾、アルゲリッチの組み合わせでシューマン、ショパン第2、チャイコフスキーなどを何度か聞きましたが、つねにオーケストラがイマイチという印象を免れることが無かったのは残念です。その後はいくつもの国内のオーケストラもめきめきと腕を上げて、ヨーロッパの二流オーケストラを遙か凌ぐまでになっていることを考えると、この新日本フィルはあんまり変わっていないなぁ…という印象です。
企業もそうであるように、よろず組織体というのはよほど強いリーダーの手腕のもとにドラスティックな改革されないと、意外なまでにその実力や体質というのは人が入れ替わっても尚、綿々と受け継がれていくもののようですから、そんなテコ入れが新日本フィルにはなかったのだろうと思います。
すみだトリフォニーホールのような立派な箱ができ、このところは、このCDでも指揮をしているクリスティアン・アルミンク、ほかにもダニエル・ハーディング、インゴ・メッツマッハー、ジャン=クリストフ・スピノジ、トーマス・ダウスゴーといったヨーロッパの若手指揮者を次々に登用したりと、表向きは派手なイメージ作りをやっているようですが、要は内側に手を突っ込まない限り、いくらこんなふうに表紙だけ外国人に取り替えても、あまり意味がないように思います。
もうひとつはショパンの途中からピアノの音が狂いだし、これがみるみる悪化していったのには唖然としてしまいましたし、たいへん残念なことです。
しかもそれが音楽で多用する次高音の部分だったので、この激しく狂ったビラビラの音が繰り返し出てくるのは興ざめで、ただもう悔しいとしか言えません。
ネット上のCDレビューなどでも、書き込んだ人がこの調律の狂いを問題にしていましたが、当然だろうと思います。
やり直しのきかない、この日のアルゲリッチの演奏に、ピアノが大きな傷を付けてしまったようなものです。
よほど何か理由があったと考えるべきかもしれませんが、手がけたピアノ技術者は、プロとしての結果責任を大きく問われる問題だろうと思います。
ところが、ライナーノートにはしっかりその技術者の名前まで記されていることには更にびっくりしました。