ジャパン品質

横山幸雄氏によるショパン全曲集のCDが順次発売され、折り返し点に来ました。

このCDはショパンのピアノソロ作品を網羅するもので、その特徴のひとつは、概ね作曲された時代に沿ってCD番号がまとめられているという点です。そのお陰でCDの番号順に聴き進むことでショパンの生涯を辿ることができることにもなっていて、なるほどと思わせられるものがあるように思います。
少なくとも、ショパンのソロ作品を作曲年代順に並べた全集というのはそれほどなかったように思います。

このCDのもう一つの特徴は、以前も書いたことがありますが、ピアノはすべて1910年製のプレイエルの中型グランドを使って日本で録音されているもので、この点は特に画期的なことだと思われます。

わざわざ書く必要もないことかもしれませんが、もともとマロニエ君は率直に言って横山幸雄氏の演奏はあまり好みではなく、通常なら彼のCDを買うことはないと思われますが、これだけきっちりと企画された他に類を見ないCDというものには強い説得力があり、しかも価格も以前からマロニエ君が主張しているような、一枚2000円というものであるので、すでに発売された6枚は全部購入して聴いています。

録音媒体の変化とかクラシック離れとか、あれこれ理由はあっても、やはりキチッとした完成されたものでプロの仕事としての内容があり、価格も妥当なものであれば人は買うのであって、無名の新人演奏家のデビューCDにいきなり法外な高い定価をつけて自嘲気味にリリースする会社は、もう少し本気で反省して、やり方を基本から見直して欲しいと思います。
CDの発売元は採算性だけでなく、アーティストを育てるという一翼を担っていることも強く自覚せねばなりません。

こういうわけで今年は横山氏のショパンをずいぶんと丹念に聴くことになりましたが、ひとつはっきりしたことはマロニエ君の好み云々は別として、この人はこの人なりに、まぎれもない「天才」だということです。
その根拠のひとつが、その安定した技巧と膨大な離れ業的なレパートリーです。

ピアニストは音楽家であり芸術家であるのだから、むろんレパートリーが多いということが直接の評価には繋がりませんが、それはそうだとしても、この横山氏のそれはやはり尋常なものではなく、現実の演奏としてそれらを可能にしているという抜きんでた能力には、これは素直に一定の敬意を払うべきだと思うのです。

しかも、このショパンの全集(まだ完結はしていませんが)でも、驚くべきはどれを聴いても一貫したクオリティと安定した爽快な調子を持っていて、それがほとんど崩れるということがありません。
とくだん魅力的でもないかわりに、いついかなるときも最低保証のついたプロの演奏であるというわけです。
一人の作曲家を網羅的・俯瞰的に聴く場合、これはこれでひとつの安心感があるのは認めなくてはならないようです。

そういう意味における実力ということになれば、横山氏はなるほど大変な逸材で、現在彼に並ぶ才能が他にあるかといえばしかとは答えられません。
どんな大曲難曲であれ、ちょっとした小品であれ、すべてにとりあえずキチッとまとまった演奏様式があり、それなりのアーティキレーションまで与えられて乱れのない演奏に仕上がっていることは、まるで日本の一流メーカーの商品の数々を見るような気分す。

そういう意味では、横山氏はまぎれもない日本人ピアニストであり、日本が世界に送り出すメイド・イン・ジャパンの高い品質と信頼性をピアノ演奏で体現し、世に送り出しているその人という気がします。

リサイタルに行く気はあまりしないけれど、曲を目当てにCDを買う場合は、変な冒険をして大失敗するより横山氏の演奏を買っておけば、大間違いは起こらない、そんな保証をしてくれる人のような気がします。

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