過日はウゴルスキのスクリャービンのCDに関して、ひじょうに悔しい失敗をしてしまいました。
ロシア出身のピアニスト、アナトゥール・ウゴルスキ(1942年〜)はリヒテルやホロヴィッツ亡き現在、ロシアが輩出した巨人ピアニストの最後の一人といえるかもしれません。
ウゴルスキはピアニストとしてロシアでは一定の名声を獲得してレニングラードの教授などもしていたものの、ある時期から深刻な迫害を受けるようになり、いらいピアノを弾くこともできない苛烈な時期を過ごすなどして、1990年ついにドイツに亡命。そこからが彼の非常に遅い西側へのデビューとなりました。
その並外れて壮大なスケールと緻密さの合わさった演奏は、たちまちグラモフォン(当時は現在と違ってまだお堅い体質の時だった)と専属契約を交わすこととなり、いらい幾つものCDがリリースされましたが、彼の演奏に見られるpppからfffまでの驚異的なダイナミックレンジの広さと作品に対する深い洞察は抜きんでており、それを演奏として可能にする強靱かつ透徹したゆるぎないテクニックには、当時世界中がこの新たな才能の登場に驚いたものでした。
その後はグラモフォンからはゆったりしたペースでいろいろなCDがリリースされ、その大半は購入していましたし、日本へも何度か来日を果たしてその並外れたスケールの圧倒的な演奏を聴かせたものです。
とくにNHKでも放映されたベートーヴェンのディアベッリ変奏曲などは非常に強烈な印象を残す見事なものでした。
そんなウゴルスキですが、その後はあまりCD等が出てくることがなくなり、どうしたのだろうかと思っているところ、ドイツのAvi-musicというあまりなじみのないレーベルからスクリャービンのピアノソナタ全集をひっそりとリリースしていることを知りました。
マロニエ君は店頭のほか、ネットでもしばしばCDを購入するのですが、この手のマニアックなCDは取扱量が圧倒的に勝るネットのほうが有利なのはいうまでもありません。
しかしこのCDは、あるにはありましたが時間を要する取り寄せ商品になっており、とりあえず「お気に入りリスト」にまで入れておいて、他のものと一緒に注文しようと思っていたら、あるときリスト上からこれが消去されていることがわかりました。
吉田秀和氏の文章にも、このCDのことが書かれており、久々のウゴルスキの新譜を発見したという調子の文章で、いきなりマイナーレーベルからのリリースを不思議がっている様子でした。
マイナーレーベルが困るのは、録音自体があまりよくない場合があること、入手できない場合が多いこと、すぐに廃盤になったりと、なにやかやと危険率が高いことですが、現に取り寄せ可能だったウゴルスキのスクリャービンが早々にリスト上からも消えてしまったということは、経験上、廃盤になったと解釈せざるを得ませんでした。
いかにウゴルスキといえどもマイナーレーベルでのスクリャービンのソナタでは、なかなか売れなかったのだろうと…。
ところが先日、天神のCD店の店頭でいきなりこのCDを発見!!思わず狂喜してしまいました。
ははあ、こんなところに売れ残りがあったのだ、灯台もと暗しだったと思い、これを逃せばもう手に入らないとばかりに迷わず買い求めました。
帰宅してさっそく聴きながら、なんとなくネットのほうを再度検索してみました。
気持ちとしては、自分が手に入れたもんだから市場には「無い」ことをもう一度確認したかったわけですが、なんと意に反してあっさりこれが出てきて、しかも「在庫あり」になっているのにはビックリ。さらに許しがたいことには他商品と3点以上まとめて買うと割引の対象にさえなってお入り、4900円ほどで買ったものがその場合は3300円ほどになるのを知ったときには、気分は一気に谷底に突き落とされる思いでした。
どうやら店頭にあった商品は、最近大量に再入荷した折に各店舗にもまわってきたのだろうと推察されました。
しばらくキリキリしましたが、しかしウゴルスキの力強くもほの暗いエレガントなピアノを聴いていくにつれ、そのゆるぎなさと艶やかな響きなど、あいかわらずの第一級の演奏に満足を感じ、しだいにそのショックも和らいでくるようでした。
録音もメージャーに引けを取らない非常に優秀なものだったのも嬉しいことでした。
めったにないのですが、やはりありますね、こういう失敗。
ですが、こういうことには立ち直りの早いマロニエ君なのです。