メナヘム・プレスラーというピアニストをご存じの方も多いことでしょう。
世界的なピアノトリオであったボザールトリオの創設者で1923年の生まれですから、今年で88歳、日本でいう米寿にあたり、現役最高齢のピアニストの一人といえるでしょう。
このボザールトリオは実に53年間という長きにわたって世界トップクラスのピアノトリオとして輝かしい活動を続けましたし、リリースされたCDなども果たしてどれだけあるのでしょうか。
このトリオは2008年に惜しくも解散されましたが、その理由などはマロニエ君にはわかりません。
マロニエ君にとっても、メナヘム・プレスラーはなにしろボザールトリオの中心的な名ピアニストでしたから、もちろんそのCDも我が家にはたくさんありますが、実際の演奏会は聴かずじまいでした。
映像などでいかにも印象的だったのは、音楽に没入しつつも常にあとの二人を気にかけてアンサンブルをいささかも疎かにしない、プレスラーの真摯なそしてひじょうに闊達な演奏態度は、見ているだけで音楽そのものという印象を受けたものです。
そんなプレスラーが、今年6月、東京でソロリサイタルを開いたというのですから、いやはや驚きです。
これまでにプレスラーの演奏はずいぶん聴いた気がしますが、それはすべてボザールトリオの演奏であって、ソロは一度も聴いたことがありませんでした。
プログラムはベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番/ショパン:マズルカ/ドビュッシー:版画/シューベルト:ピアノ・ソナタ第21番 変ロ長調 D960というものだったようですが、そこから後半のドビュッシーとシューベルトの演奏がNHKの音楽番組で放映されました。
インタビューにも答えていましたが、何を聞かれてもサッとタイミング良く話し始めるその様子ひとつとっても、とても90歳近い人物とは思えません。
とくにシューベルトの最後のソナタに関しては、大変な曲なのでずっと避けていたが、弾かなくてはならない時が来たという答えが印象的でした。
演奏は大変立派なもので、とくにドビュッシーには気品と輪郭があって素晴らしかったと思います。
シューベルトは第2楽章の寂寥感が印象的でしたが、後半は若干お疲れを感じないでもありませんでしたが、それでもよくこんな大曲を弾き通せるものだと感嘆させられました。強いて言えばもう一歩深さがあればという印象…。
また舞台上での足取りなどは実にしっかりしていて、まったくふらついたところなどありません。
他日は室内楽なども演奏したようで、まことに精力的なスケジュールです。
いかに矍鑠としているとは言っても、現実の歳は歳なのですから、それでいまだに海外へ演奏旅行に出かけ、その地でこのような重量級の演奏会をするとは、世の中には凄い人物がいるものです。
会場はサントリーホールのブルーローズ(小ホール)で、ここはホールといってもフラットな床の広間に椅子を並べただけの、いわばホテルの宴会場のような場所ですが、プレスラーほどのピアニストのリサイタルなら、もっと相応しい会場が東京にはいくらでもあったように思われて、ちょっとその点は納得がいきませんでした。
ちなみにピアノはスタインウェイでしたが、正確なことはわかりませんが、見たところ10年経つか経たないかぐらいのピアノだったように感じました。ごくごく最近のものとは違い、まだいくらか良さが残っていたと思います。