こんなのあるよ

ホームページにコンサート情報のコーナーを作るため、久々に夜中などに情報の入力作業をしていると、なんだか妙になつかしい感触を思い出しました。
すでに一部の方はご存じかもしれませんが、マロニエ君は白状すれば、数年前に友人と「こんなのあるよ」というコンサート情報誌を発行していたことがありました。

ほうぼうからありとあらゆる手段によって集めた情報を、片っ端からパソコンへ入力していく地道な作業をしていた頃のことがふと思い出されてくるわけです。

このコンサート情報誌はどこからのひも付きでもない、もっぱら聴衆の側に立ったクラシックのコンサート情報誌で、福岡県内をその対象エリアとして毎月発行し、情報としてあがってきたすべてのコンサートを開催日順に一斉に並べたものです。
ここではアクロスでやる有名オーケストラの演奏会から、街角の喫茶店で行われる小さなコンサートまで、すべて同じひとつのコンサートとして取扱い、なんの差別もなくこれらを網羅的にコンサート情報として書き連ねたものでした。

毎月、向こう二ヶ月の情報を満載して発行に漕ぎつけるだけでもヘトヘトになる作業で、しかもこれは無料配布でしたから、収入は広告収入がそのすべてで、ずいぶんたくさんの方にお世話になりましたが、金銭的には印刷会社への支払いと、配布するためのガソリン代など必要経費を差し引くと、もういくらも残らず、常に逼迫した厳しいものでした。

原稿の取り纏めから入力、広告取り、仕上げ、印刷、県内への配布などをすべて我が身を削ってやっていましたから、金銭的にはもちろんのこと、時間的、体力的、精神的すべてにわたってなにかを使い果たした感がありました。

これをやっているときの時間の経つのの早いことといったらなく、やっと原稿を仕上げて印刷にまわし、県内各所に配布を終えたかと思うと、すぐに次の号にとりかからなくてはいけません。
情報は自分達で集め、網羅することが目的なので、もちろん無料掲載、無料配布でしたが、広告取りはなかなか思うに任せない仕事ですし、これをやっている間は盆も正月も無関係、当然ながら旅行にも行けないという有り様でした。

ただし、嬉しいことには「こんなのあるよ」はごく短期間のうちに多くの人達に受け容れられて広く浸透し、少なくない支持者を獲得したのはまったく望外のことでした。ついにはこの情報誌を手にあちこちの珍しいコンサートに行ってみるという、少数ではありますが、ひとつの行動様式まであらわれるに至ったのはさすがの我々も驚きましたし、さらには本来聴衆のものであったはずの「こんなのあるよ」が、音楽事務所や演奏家など、多くの音楽業界の人達の間でもひじょうに重宝がられたことは、いま思い返してもがんばった甲斐があったというべき誇れる部分でしょう。
最盛時は、チケットぴあやヤマハなどはもちろん、どこのホールや公共施設に行っても「こんなのあるよ」は必ず置いてありましたし、コンサートに行っても開演前や休憩時間に、熱心にこの情報誌を見ている人をポツポツ見かけるのは決して珍しい光景ではありませんでした。

しかし、もともとが無理を承知ではじめたことでしたから、次第に疲れが嵩み、本業のほうへまで支障が出るに及んで、これ以上続けていると自分達のほうが空中分解することを悟って、ついには廃刊する決意をしました。
2003年3月から2006年5月までの3年余り、約40号を福岡県内のあらゆる音楽関連施設や公共施設などに送り出しました。

その後は広告主の一人でもあった情熱ある方が、この志を引き継いで類似した情報誌を規模を縮小しながら発行されましたが、やはりこちらも残念なことに現在は廃刊となっています。そもそもこういう仕事は個人レベルでできるようなことではないので、もっと大きな組織体によって余裕を持って安定的に発行すべきものだというのが率直なところです。

しかし、自分で言うのもなんですが、ひじょうにわかりやすい、実践に役に立つ情報誌だったと今でも思っていますし、それにひきかえ、今どきはあってもなくてもどうでもいいようなフリーペーパーの類がなんと多いことかと思います。
考えてみれば「こんなのあるよ」がなくなって一番困ったのはマロニエ君自身かもしれません。
そんなわけで、規模の点では遙かに及びませんが、HP内にコンサート情報欄を作ることで、わずかなりとも情報の整理と確認ができたらと思っていますし、「こんなのあるよ」をご存じの方はそのDNAを引き継ぐものと思って見ていただければ幸いです。

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