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昨日に引き続いた内容になりますが、プロのピアニストの演奏の見た目というものは、単純な体格差においても言えるような気がしました。

マロニエ君は昔からある方の演奏会にお義理で行かなくてはいけない立場にありましたが、その方は教育界の功労者ではありましたが、ピアニストとしてはそれほどでもなく、しかも極端なあがり性で、さらには体格が小柄と来ているので、演奏会ではいつもハラハラドキドキで、そんなときのステージ上のピアノは残酷な黒い怪物のように大きく見えたものでした。

この経験から、ピアノが大きく見えるときの聴く側の苦しみというのもずいぶん刷り込まれていたようで、いらいマロニエ君はあまりにも小柄なピアニストがステージで演奏するのは、まるで子供が座布団を敷いて車を運転しているみたいで、不安感が先行するようになりました。

小柄なピアニストはそれなりに名を成した人であっても、体格からくる制限があるのか、出てくる音もきつい感じであまり好みではないし、音楽もどうしてもスケール感のないものになってしまいます。
以前にショパンコンクールで優勝したポーランド男性も、一定のファンはいるようですが、どうも今以上のピアニストに成長していく予感がしないというか、体格からくる制限みたいなものがあるように思います。

逆に、あまりにも大柄な男性、見るだけで圧倒されるような偉丈夫がピアノを弾くのも、これもまた見ていてあまり心地よくはありません。
こちらは名前を出してもいいかもしれませんが、子供のころに行ったクライバーンのリサイタルなども、まずステージに現れたときからその長身ぶりに驚かされましたし、演奏中も膝が鍵盤下につっかえているのが気になって仕方ありませんでした。なにしろこの体格ですから、フォルテッシモともなると肉眼でもピアノが小刻みに揺れているのがわかるほどで、一夜の見せ物としては面白かったけれども、純粋にピアニストとしては疑問も残りました。

現役でもベレゾフスキー、ブロンフマン、エリック・ル・サージュなどは、演奏の良否はさておいてもなんだか見ていて、いかにもピアニストがXLサイズという感じで、どうしても大味な印象が否めません。

いっぽう女性ピアニストでは、上半身の肌もあらわな衣装を着て演奏する方も少なくありませんが、女性の目から見るとどうなのかは別としても、あまりに痩せこけた腕とか肩の骨なんかがゴツゴツして皮膚の下で動いているような人は、やはりどうしても演奏家としての見栄えがいいとは思えません。ついでながら、あまりに化粧やヘアースタイルや衣装がキマり過ぎなのも逆効果となり、演奏家としての品位に欠けるような気がします。

ピアニストではありませんが、指揮者でも身長はそれほどではない痩身の小澤征爾などは、よく練り込まれた鮮やかで細緻な指揮はしても、どこかその姿と同じで幅広いスケール感というものが不足しがちですが、その点では過日ベルリンフィルにデビューした佐渡裕はその長身と堂々たる体躯そのもののように、音楽にも厚みと腰の座った雄渾さがあり、安心して彼の音楽に身を委ねることができたように思います。

このように、音楽には演奏者の体格が直接・間接にもたらす何かが必ずあるような気がします。

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