増幅と収束

このところ個人所有のスペースにもかかわらず、ひじょうに音響の素晴らしいふたつの場所でほんのちょっと弾かせていただく機会に恵まれて、その響きの美しさに感心させられました。

そのうちのひとつでは、音響のためのさまざまな工夫がなされており、そこには専門家の助言なども反映されているそうですが、最終的に決定を下すのはオーナー自身の耳でしょうから、やはりまずはよい耳、つまり判断力を持った敏感な耳を持つことが何よりも大切だろうと思われます。

音響の素晴らしい場所では、その響きに助けられて、ピアノなども大いにその能力を発揮するのはいうまでもありませんから、同じ楽器でも果たしてどういうところで使われるかによって、まさに運命が決まるといえるようです。

逆に、巷にあっていかがなものかと思うのは、れっきとしたピアノ店の店舗などであるにもかかわらず、音響的な配慮という点で、まったくなんの配慮もなされていないところがあるのは、なんとも腑に落ちないところです。
しかもマロニエ君はそういう場所を何カ所か知っています。

コンクリートやツルツルした石材などに囲まれた店内は、見た目はともかくとして、響きすぎる銭湯みたいな場所にピアノを並べているようなもので、音はビリヤードの玉のようにあちこちに跳ね返って暴走するばかり。とても本来の音を聴くことなどできません。
とりわけお客さんが弾いてみて音を確認する場としては、著しく不適合な環境だと思うのですが、それでも商売として成り立っていくというのであれば、なにか違った要素や事情で売れていくのかもしれませんが。

とりわけマロニエ君が個人的に感じるところでは、ピアノの音の一番の敵はガラスだということです。
もちろんガラスといってもその面積によりますが、例えば広い壁一面がすべてガラスといったような状況では、ピアノの音はことさら鋭く反射して、とてつもなく攻撃的な音になってしまいます。

ピアノの音は本体の塗料の質や仕上げによっても大きく影響を受けますが、ましてやいったん発生した音がどういう環境で鳴り響くかということは極めて重大な影響があると思われます。
ガラスや光沢のある石材はおそらく最悪で、次がコンクリート。これもかなり厳しい音になりますが、しかしガラスよりはいくぶんマシな気がします。
ただし、カーペットなどを敷いているところは、いくぶん相殺されているようですが。

福岡県内には、驚くべきことにホール内部にガラスの内装材を多用したホールがありますが、そこの響きは音楽愛好家の耳には極めて厳しいものだと言わざるを得ません。

その点、木はいくぶん良いものの、それも程度によりけりで過信は禁物だと思います。
「木は音に良い」という盲信があるのか、木のホールなどと言って、やたら木材で床や壁を覆い尽くしたような空間がありますが、これがまた必ずしも好ましい音で鳴ってはいない場合があるように感じます。
木であってもやりすぎれば音はやはり相当暴れてしまい、節度ある響きではなるということでしょう。

その暴れ方がガラスやコンクリートに比較すれば木であるぶん多少マイルドという程度の差であって、ただ音がワンワンするだけの音の輪郭も定かでないような状態でも、関係者は「木だから響きが良い」などと信じ込んで自慢さえしているような場合もあるようです。

必要なのは発音された音を響きとして増幅させることと同時に、そのあと、その音がどのように収束されるかという点にも注意を向けるべきだろうと思います。
上記のふたつはその点、すなわち増幅と収束が優れていると思いました。

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