フランス人のセンスに感服することは折に触れてあるものですが、またしても驚かされるハメになりました。
サンサーンスの動物の謝肉祭がひとつの可愛らしい、あっさりとした白の世界に作り上げられた素晴らしい映像を見ました。
指揮はチョン・ミョンフン、フランス国立放送フィルハーモニー管弦楽団と二人の若い女性ピアニストによる演奏ですが、床も周囲も真っ白のスタジオで演奏され、別所で収録された子供部屋での親子が動物の謝肉祭の絵本を見ることで、ページを繰るごとに音楽が引き出されていくというスタイルです。
この父親役となったのはフランスで有名な人気喜劇役者スマインで、彼の名演技がこの映像をより素晴らしいものにするのに一役買っていたことは間違いないでしょう。
さらに圧巻なのは、その演奏中の現実のオーケストラの中に、なんとも可愛らしいアニメーションの動物たちが現れ、のしのし歩いたり、飛んだり跳ねたりと、さまざまにデフォルメされた動物たちの動きが実にまた精妙で、よほど周到な準備がされたものだろうと思われます。この絵の動物たちが、親子が見ている本の中から飛び出して、チョン・ミョンフンの傍に行ったり、奏者の間であれこれの動きや遊びを展開します。
後半には父親役のスマインがやってきて指揮棒を振る場面がありますが、それがまたなんともサマになっていて、いわゆる役者の俄仕込みとは思えない、そのいかにもコミカルで音楽的な動きには感心しました。
全体に横たわる趣味の良さ、垢抜けた感性はさすがはフランスというべきで、日本人にはどう転んでも作り出せない世界だと思います。動物といえば緑をふんだんに使ったりと、うるさいような装置がごてごてと並ぶことになるような気がします。
とりわけ白の使い方は絶妙で、日本人が白の世界を作ると、雪の世界か、さもなくば温かみのない殺伐としたビルの内装のような冷たい世界か、あるいは味も素っ気もない病院みたいな世界になるように思われます。
フランス人は白を他の色と対等な、白という色として捉えているような気がしますが、どうでしょう。
親子を登場させるにしても、こんな絵本の世界でやさしく子供に読み聞かせる愛らしい情景となると、日本ではゴツイおじさんと小学生ぐらいの息子という設定はまず絶対に考えられない。
まず思いつきもしないでしょうし、誰かが提案しても、理解が得られずまっ先にボツになるに違いありません。
おそらくは猫なで声を出す若くてきれいなお母さんと、幼稚園ぐらいの可愛い子供のペアといったところでしょう。
しかしそれではただきれいな作り物の世界になるだけで、ここで見られるような自然な親子の間にある触れ合いとか味のある情感が自然に滲み出てくるということがないと思います。
この映像を見ていて、常に対照的なものとして頭から離れなかったのが、NHKの音楽番組などで使われるスタジオの野暮ったいセットの数々でした。いかにもあの紅白歌合戦に通じるような、くどくてわざとらしい、結婚式の披露宴的な世界を次から次に作り出しては、そこでクラシックからポピュラーまでの様々なパフォーマンスが収録されますが、一体全体あのセンスはどこから来るのかと思います。
この映像の監督はアンディ・ゾマー、ゴードンということでしたが、まさにその首尾一貫したあっぱれな仕事ぶりには脱帽でした。
くやしいけれど、やっぱり彼らにはどだい適わないと思います。
ちなみに、ここで使われた2台のピアノはヤマハのCFIIISで、やっぱりフランス人はよほどヤマハが好きらしいことはここでも確認できました。