レクチャー&コンサート

横山幸雄氏によるレクチャー&コンサートに行ってきました。

チケットが千円というのが信じられないほどの内容で、前半は2人の生徒を相手に公開レッスンがおこなわれ、後半は横山氏のリサイタルという構成で、休憩を挟んで2時間を優に越す内容でした。
指導も演奏もして、自らマイクを持っておしゃべりもすれば、ロビーにはCD販売コーナーが設置され、終演後はサイン会まであるのだそうで、有名ピアニストもいまや多角経営とサービスの時代のような印象。

安く聴いておいて不満を言ったら叱られそうですが、こっちだって遠くまで頑張って行ったわけだし、この世界は安ければなんでもいいというわけでもないので、そこは申し訳ないけれども敢えて率直なところを書いてみます。

レッスンでは小学生と中学生の2人が指導を受けましたが、横山氏の声量がマイク付きでもずいぶん小さく、話し方もぼそぼそとつぶやくようで、言葉が聞き取りづらいのが残念でした。ホールにお客さんを入れて衆目の中でレクチャーをする以上は、もう少し広く見せて聞かせるに値する性格のものであってほしいと思いました。
レッスン自体は頷ける内容も多々ありましたが、細かい指示を矢継ぎ早に出しすぎるという印象で、もう少し音楽全体に通じる本質に迫るほうがこういう場には好ましいように感じましたが、まあそこは横山氏のやり方なのでしょう。

音楽家である以上、その話し方にも抑揚や強弱などのメリハリ、もう少しその本業からも汲み取ったであろう表現があればと思いますが、その話しぶりはピアノでいうと機械的な演奏みたいでした。
生徒に「あまりシステマティックにならないように」と指示した箇所がありましたが、それは貴方の話し方にも言えることでは…とつい思ってしまいました。

後半のソロ演奏は、指のメカニックはなるほど達者ですが、やっぱり音楽もどちらかというと平坦でドライ、作品に対する愛情深さが感じられずに、もう一つ満足が得られなかったのが正直なところです。
曲目はショパンの第1バラード、エチュード5曲、リストのカンパネラや献呈など5曲と、アンコールにもリストとショパンが演奏されましたが、すべてに共通するのがさらさらと譜面が進行していくだけで、もう少しの深みと、路傍の花にも目を向けるような情感があったらと思いました。

メモリーに余裕があってサクサク動くパソコンみたいな爽快さはありますが、少なくともマロニエ君は聴いている人間への語りかけとか、心にぐっと食い込んでくる何かが欲しいと思うわけです。
あれだけの秀でた才能とメカニックがあるのだから、もうひとつ踏み込んだ味わいがあったらどんなにか素晴らしいだろうかと思います。

ピアノはベーゼンドルファー275とスタインウェイDが使われて、レッスンでは生徒がスタインウェイを、リサイタルではショパンをベーゼンドルファーで弾き、途中でピアノを入れ換えて、続くリストではスタインウェイを弾くという面白い趣向で、この点は大いに楽しめましたが、いかんせんマロニエ君の好みではいまさらながらベーゼンドルファーでのショパンはいただけませんでした。

ベーゼンドルファーが大変優れたピアノであることはまぎれもない事実ですが、このピアノでショパンを鳴らすと、まるでピアノの音色がしわがれた老婆の声のように感じられてしまいます。
ミスマッチというのはまったくこの事で、良し悪しの問題ではなく、世の中にはどうしてもソリの合わないものがあるのだと思います。
逆に使ったらずいぶん違っていただろうと思いますが。

会場が遠かったことや、折からの台風の影響による終日の悪天候も加勢して、帰宅したころにはずいぶんとぐったり疲れてしまいました。

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