月曜の読売新聞の朝刊文化欄には、ずいぶん広々と紙面(6段抜きで大小3枚の写真付き)をとって「ウィーンのピアノ継承」というタイトルでベーゼンドルファーの記事が載っていました。
この伝統あるピアノメーカーをヤマハが買収したというニュースは衝撃的でしたが、あれから3年半が経ったらしく、経営合理化も完了して、今後は世界的な販路拡大へ本格的に乗り出すのだそうです。
ベーゼンドルファーはピアノ製作に関して例外的に手間のかかる作業を熟練職人がすべて手作業でやっているということを、事ある毎に標榜するメーカーで、例えば、完成した楽器には付けられるのは製造番号ではなく、作品番号である云々など、それらは執拗に繰り返されるフレーズだという印象さえありました。
ところが実際には手作業は8割だそうで、裏を返せば2割は機械化されているということでしょうか…。
「なあんだ、スタインウェイと大体おなじじゃん!」って思いました。
もちろんベーゼンドルファーの隅々にまで行きわたる工芸的な美しさは抜きんでたもので、この点ではまさに世界の一流品というに相応しいものであることは間違いありませんが。
ベーゼンドルファーといえばピアノ界の至宝のように言われて、何かといえばウィーンの伝統、独特のトーン、貴婦人のよう、というような言葉が今もこの楽器のまわりには朝靄のように漂っています。
さぞかし世界的な需要もあるのかと思いきや、販売台数はヤマハの助力を得てもさほど伸びていないようで、2009年/2010年はそれぞれ220台に留まっているとか。損益分岐点が260台の由で、なおも赤字ということのようです。
製造に手間暇がかかるというのもあるでしょうが、販売量が伸びない理由のひとつには、あの独特な個性とピアノとしての汎用性の薄さに原因があるようにも思います。
あれだけ音色的にもスイートスポットが狭く、弾く作品も選ばざるを得ないとなると、オールマイティであることがピアノにとっては現実的性能とも同義になりますから、好きでも諦めるという人は少なくないような気がします。
よほどのお金持ちならいろんなピアノをそろえて、モーツァルトとシューベルトのためのピアノということで一台買うのも一興でしょうが、普通はなかなかそうもいきません。
また以前はホールでもちょっと贅沢なところはスタインウェイとベーゼンドルファーを揃え置くのが通例のようになっていましたが、今はそのあたりも少し変わってきている印象です。
驚いたのは、ヤマハがベーゼンドルファーの買収のきっかけになったこととして、そもそもヤマハがウィーンフィルの管楽器製作を請け負っていることからウィーンとの関わりを深めていったという側面があったらしく、これはまったく知らなかったことでした。
ウィーンフィルの管楽器がヤマハ…、これは考えたらすごいことだと思います。
その関わりの中でヤマハの高い品質への理解が深まったことで、そこからヤマハがベーゼンドルファーの伝統を守ろうという考えに繋がったようなことが書かれていました。
ま、そのあたりは冷徹非情なビジネスの世界のことなので、あくまで表向きの話かもしれず、半分聞いておけばいい気もしますが。
ただ、ヤマハは管楽器の分野でもその品質や鳴りの良さには定評があり、最近ではヴァイオリンなどでも高い評価を得ているといいますから、電子楽器を含む、ほんとうにあらゆる楽器を一つのメーカーが一つのブランドのもとに作っている(しかもどれもがクオリティの高い上級品!)という点で、これは史上例を見ない会社ではなかろうかと思います。
もしかしたら、そのうちヤマハの楽器だけを使ってのオーケストラやピアノコンチェルトなんかもできるかもしれませんね。そうしたらギネスものです。