無言の真剣勝負

行きつけの大きめのスーパーに、このひと月ぐらいのことでしょうか、精肉売り場の前にある大型の冷蔵ボックスみたいなところが、割引品を置く専用の場所となりました。

以前は、その時期毎に量販を目論む肉類とか、チラシ広告の品など、内容がいつも入れ替わる場所だったのですが、このところは通常の商品で、加工日が一日遅れたものがここに一斉に投下されるようになったのです。
そして値段はというと、この場所にあるものはすべて半額ですから、すぐに食べるものであれば加工日の一日遅れぐらい問題ではなく、それこそいろんなものがあるので、マロニエ君も何度か買ったことがあります。

ところが、この半額コーナーができてしばらく経った頃からある現象みたいなものが起こってきたことに気付きました。
たまたま買い物に来たら安いコーナーもあるから、そっちも覗いてみようかという流れではなく、あきらかにそこだけを目的にやってくる種族があらわれたようなのです。

この人達の態度というか動きというのが、どうにもマロニエ君は好みません。
まずそのコーナーの前に立ちはだかって、安くなった商品のあれこれをしらみつぶしに見て回り、他のお客さんもいるから場所も少しは遠慮するとか、人にも少し場所を譲らなくてはという気配などまったくナシ。
マロニエ君はこういう人と競い合うように商品を見るのがイヤなので、しばらく他を見たりして時間つぶししたりしていましたが、この人達はちょっとやそっとでは動く気配がありません。
まさに好きなだけこの場所と時間を占領していて、それ以外は一切シャットアウトといった感じです。

それでもちょっと人が途絶えたときにそこに行くと、いい歳をした女性がサッと近づいてきたかと思うと、人の前にいきなりグッと手を伸ばして、お肉の入ったパックを2つ3つをまさに奪い取るように、ものすごい勢いでとってしまいました。
べつにマロニエ君はそれを買うつもりでもなかったものの、その鬼気迫る動作は呆気にとられるものでした。

この女性、あとから気がついたのですが、そのいくつかのパックを全部お買い上げかと思いきや、そうではなくて2mほど離れた場所に移動しておいて、こんどはゆっくり時間をかけながら真剣な眼差しであれこれと見比べています。
しばらく経ったころ結論が出たのか、またこちらに近づいてきたと思うと、いらないものをポンとぞんざいにこちらの目の前に戻して去っていきました。
つまり買おうかなと思った物はとりあえずたくさん持ち去っておいて、場所を変えて一人でゆっくり選んだ後、要らないものだけをまた売り場に戻すという手法のようでした。そして、見るとその人の買い物かごの中には、赤い丸の半額と書かれたシールの貼られた肉類ばかりがたくさん入っていました。

しかしこの女性などはまだいいほうで、カートに乗せたかごからあふれんばかりにこの半額コーナーのものばかりを買っている開き直ったような人もいて、見ていてなんだかとてもやるせない気分になってしまいます。
もちろんマロニエ君だって、半額となれば魅力ですから、欲しいものがあれば買いますし得した気分にもなりますが、ものには限度というものがあるように思います。

まるで戦いのような真剣さで漁りまくる人のお陰で、その場になんともいえない張りつめた緊張感が生まれて、そうなるとこちらもつい焦ってしまう自分までがたいそう浅ましいようでイヤになってしまいます。

ここで勝負に身を投じている人達は一様に無言ですが、ほしいものをゲットするための高いテンションがピリピリしていて、はっきりいってコワイのです。
びっくりしたのは、それを小さな子供とお父さんがやや離れた場所からおとなしく見守っており、やがて戦利品を携えてお母さんはニコリともせずに二人のもとへ戻っていくのですが、まるで荒野の生存競争さながらです。

さて、昨日の夕方またそのスーパーに行ったら、すっかりそのコーナーはなくなっていました。
あの感じでは夕方まで商品が残っていないのか、あるいは店が側が廃止にしたのか、どちらかでしょうが、以前の落ち着きが戻っていて妙にホッとしました。

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