知人から誘っていただいて、過日、福岡の郊外にあるホールへピアノを弾きに行ってきました。
道が空いていればマロニエ君の自宅から3〜40分ほどの距離にある総合文化施設で、ここの音楽室はピアノクラブの定例会でも何度か利用したことがあるのですが、今回の会場は600席弱のメインホールで、ピアノはスタインウェイのD274がありました。
ここに限らず、今どきは郊外のあちこちに作られた各ホールにも、多くの場合スタインウェイが収められている気前の良さには今更のように驚かされます。
マロニエ君の知る限りにおいて、このホールではこれというコンサートがあまりないため、これまで内部に入ったことがなかったのですが、それが思いがけず、予想外の良いホールであったのは驚きでした。
ホール内の趣味も良く、とりわけ余裕のある大きめの客席のシートの立派で上質なことには目を見張りましたが、これは福岡市内のコンサートがしばしば行われている、いかなるホールと較べても突出して優れたものでした。
さらに音響がなかなかいい。
近ごろの新しいホール(とくに新しいものは)はやたらめったら響きすぎる、残響という名のただ音がワンワン暴れるだけのホールが多くて好きになれないのですが、ここの響きには音の輪郭を崩さない節度があり、この点がたいへん好ましく感じました。
音楽専用ホールには残響の数値などにこだわりすぎるのか、結果として非音楽的なもの、あるいは演奏家の妙技が伝わらない場合が多いのですが、その点ではいわゆる多目的ホールのほうが音がまだしも自然で、マロニエ君としては遙かに好ましく感じる場合が多いという印象です。
ホールというのはあらためて大したものだなあと感じたのは、最後列に座っても、そこへ到達してくる音は前方に較べてほとんど遜色なく、空間全体が豊かな音に満たされるのは今更ながら感銘を覚えます。
お客さんの入ったコンサートでは演奏中にひょいひょい席を移動するなどの聴き比べはしたくでもできませんので、そういう意味でもこういう機会にいろんなことがわかります。
このような好ましいホールで行われるピアノリサイタルなどもぜひ聴いてみたいものですが、悲しいかなアクセスが不利なため、催しの中身のほうが施設設備に追いついていない観があるのはなんとも残念なことです。
コンサートの情報はそれなりにアンテナを立てているつもりですが、ここのホールとピアノに相応しいコンサートが行われたという記憶はあまりありません。
大半が地元レベルのイベントやコンサートに留まっているようで、なんとももったいない話です。
これぐらいのホールこそ(規模の点でも、音響の点でも)市内中心部にぜひもうひとつ欲しいもんだと思わせられる、そんな素敵なホールでした。
ピアノは製造後7ー8年ぐらいしか経っていない比較的新しいものでしたが、なかなかバランスの良いピアノでしたし、調整もきちんとなされていることが弾いてすぐわかるものでした。
少なくとも現在の新しい同型よりは、まだ「らしさ」が残っており好ましく感じました。ただこの頃のピアノから、次第に基礎的なパワーは少しずつ落ち始めているように感じるのも事実で、中音域の厚みとか、低音の鐘のような迫力などはやや薄味になっているようです。
それを補うように、全域ブリリアントな音色ですが、できたらもう少し腹の底から歌って欲しいところ。
こうして様々な年代の異なるDを弾いてみると、それぞれの製造時代ごとの僅かな違いが手に取るようにわかり、それは多くのCDなどから得た記憶ともほぼ正確に一致するものなので、ピアノ好きとしては興味深い体験させてもらえる気がしています。
管理や調整にもそれぞれ差がありますが、生まれ持った器というのは、それを超えたところにあるもののようです。