男のたしなみ?

先日ピアノリサイタルをされた川本基さんは、終演後、拍手に応えてカーテンコールに応じられたあと、マイクを持って再びステージにあらわれました。

マロニエ君はまったく個人的な好みとして、演奏者がトークをするのは好きではありません。
演奏は聴いても、下手なトークで上っ面だけの曲の解説など聞いても仕方がないからですが、この川本さんの話はそれとはまったく違いました。
演奏も済んだばかりで、いまさら音楽の話をしてもつまらないので、ちょっと僕の日常のことを話しますと前置きされ、ドイツでの生活や、長年の目標だった運転免許をついに取ったというような話をされたのですが、その語り口が実に穏やかで、言葉が滑らかで、内容も面白く、人柄からくる品の良さがあって、こういうトークなら歓迎だと思いました。

とくに印象に残ったのは運転免許に関する話で、川本さんによれば東京で暮らしていたときはなかなか車を運転するという環境ではなかったし、ドイツでも交通網が発達していて、現実的には敢えて運転免許がなくても実生活にはなんら支障はないけれども、しかし自分はやはり男の子なのだから、やはりどうしても運転がしたいという願望があったのだそうで、今年は年頭から発奮して免許を取るという目標を立て、ついに念願叶ってそれを手にしたという話などを、ドイツの運転免許取得事情などと絡めておもしろおかしくされました。
そして現在、ドイツでは車を手に入れて、あちこちへの移動にはこれを使っているということでした。

もちろんその語り口もなかなかよかったのですが、ぜひ車の運転をしたいという男性的な可愛気のある気分それ自体が久しぶりに聞いたようで、今どきの発言としてはとても新鮮でした。
近ごろの日本ときたら、血気盛んなはずの若者は一様にしょんぼりしているし、車にもまるで興味がない由で、なにがなんでも車を手に入れるといったたぐいの情熱は失って久しい気がします。
そして、今では街中には傍若無人な自転車が無数にあふれ出て、あたかも昔の中国のようで、その中国のほうが今や世界最大の自動車購入国になっているようですから、世の中どうなるかわかりません。

川本さんはずいぶん若い頃に日本を離れてはや十数年ということですし、以前マロニエ君は拉致被害者で帰国された蓮池薫さんの書かれた文章を読んで、そのあまりの美しい日本語の素晴らしさに驚嘆したことがありますが、このように多感な時代を外国で暮らしてきた人のほうが、むしろ溌剌とした情感・情熱を失っていないような気がしていまいます。

現代の若者はもはや免許さえ取ろうという意欲もあまり無いし、取るにしても、それは車に乗りたいという願望からではなく、就職に必要な資格といった非常にさめた色合いです。当然ながら、巷には運転が猛烈にヘタな男の多いことは日々唖然とするばかりです。
こういう言い方をしちゃいけないかもしれませんが、昔はのろのろ運転をしたり、駐車場でもスパッと一発でとめられないのは決まって女性ドライバーで、その点では男の運転は実に達者でダイナミックでしたが、今はまったく状況が変わりました。もしかしたら女性のほうが上手いかもしれません。

アホみたいな運転をして周囲の流れから浮いていても、本人が気付きもしないのは大抵若い男性の運転で、この一点をみても世も末だという気がしています。
昔は、男で運転が下手ということは大変な不名誉で、もうそれだけで男じゃありませんでした。初デートでモタモタ運転でもしようものなら、いっぺんで女性から軽蔑されるような時代でしたし、運転の巧拙は、古い言葉で言うならセックスアピールにさえ繋がっていたように思います。

男も女も「らしさ」というものは、ヘンな意味ではなく色気があっていいと思うのですが。
女性が韓国の俳優に惹かれるのは、きっとそういう本能がどこか刺激されるからではないかと思います。

イケメンなんて言葉のない時代、日本の男子はもっと本質的にかっこよかったような気がします…。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です