共に2005年のショパンコンクールで4位に入賞した二人の日本人、すなわち山本貴志と関本昌平のCDを立て続けに聴いてみました。
もとは山本貴志のコンクールライブをCD店のワゴンセールで買い求めたことがきっかけで、ついで関本昌平のデビューCDを聴き、さらに同氏のコンクールライブを購入、最後に山本貴志のノクターン集と都合4枚を聴いたわけです。
コンクールの結果が共に4位であったことが示す通り、いずれも実力は拮抗しており甲乙付けがたい素晴らしいピアニストだという点では大いに納得しました。
コンクールで日本製ピアノを使っている点でも、二人は共通しているようです。
強いていうなら山本貴志が詩的で高い完成度を目指しているのに対して、関本昌平はよりパワフルで燃焼感のある演奏というふうに区別できるような気がします。
山本貴志は大きな冒険心や霊感の発露がないかわりに、きめの細かい隅々まで神経の行き届いた均整の取れた演奏をコンクールでも披露して、その端正でデリケートな美しさがワルシャワの地でも多くの支持を得たようです。
どちらかというとブレハッチ型の演奏ですが、その繊細を極めた心情には日本人ならではのクオリティと美意識が伺えて、ブレハッチよりもさらに上を行くほど姿の整ったショパン演奏を実現した弾き手だと思われます。
対する関本昌平には演奏に力感が漲り、ショパンの音楽が崩壊しない範囲においてピアニズムを輝かせながらガッチリとした重力と推進力があるのがなんともいえぬ魅力で、非常に聴きごたえがある。
関本昌平のデビューCDは日付を見ていると、なんとショパンコンクールの直前に栗東のホールで収録されており、これはコンクールを控えてよほど弾き込んでいたのか、ともかく傑出した演奏だと思いました。曲目もコンクールライブとほぼ重複したものですが、セッション録音だけにより自分の魅力を十全に発揮しているといえますし、ピアノも録音も非常に満足の高いものでした。
コンクールライブでは一発勝負ならではの緊張感や粗さ、わずかなミスなどもありますが、基本は似た感じの演奏でした。
一番の違いはピアノで、セッション録音ではヤマハのCFIIIS、コンクールではカワイのSK-EXを弾いていますが、この両者に関する限りではCFIIISのほうがはるかにピントが合っていて。モダンで華もあり、ショパンにはマッチしていると思いました。
反対に山本貴志はコンクールでもCFIIISを弾いていますが、これはこれで非常に彼の演奏に適した賢い選択だったと思いました。これがスタインウェイでもカワイでも、彼の明晰でセンシティブな演奏の魅力は表現できなかったかもしれません。
どれもが素晴らしいCDで大いに満足していたのですが、最後に聴いた山本貴志のノクターン集は昨年夏、山形テルサで3日間を費やして収録されたもののようですが、その録音が芳しくない点は落胆させられました。
全体的に何かが詰まったようなモコモコした音で、これでは演奏の良し悪しもピアノの音色もなにもあったものではありません。
まるで分厚いカーテンの向こうで演奏しているみたいで、なんの迫りも広がりもない音になっているのは、いかにも演奏者が気の毒だと思いました。
全体として、ショパンとしての完成度ということでいうと山本貴志なのかもしれませんが、あくまで僅差であって、ショパンらしさを狙うのであれば、もう少し湧き出るような詩情の表現があったらと思われますし、聴き手も息の詰まるような完成度より、即興的な優美を期待しているのではないでしょうか。
その点では関本昌平は、質の高い演奏の中にもピアニスティックな逞しさがあるぶん、聴きごたえという点ではこちらのほうが大いに溜飲の下がる思いがして、現段階ではマロニエ君は関本氏に軍配を上げようと思います。
日本人の課題は、許される範囲内で、奏者の感興による微妙な崩しや、聴く者の心を動かす歌が入ることが必要じゃないかという点のように思うのです。
現状ではこの2人に限りませんが、あまりにも固い枠に囚われている印象です。