正式購入へ

〜昨日の続き。
この方はずいぶんあちこち日本全国のピアノ店を見て回られたようなのですが、いろんな意味でこれだという決定打になるピアノがなく、そのうちのごく僅かはマロニエ君も同行させていただいたところもありましたが、ピアノ選びは楽しくもあり、同時になかなか難しいものだと思います。

これが日本製の比較的新しいピアノとかであればそのようなことも少ないと思われますが、古い輸入物のピアノとなると、これはもしかしたら危ないもののほうが数が多いと思っておいてもいいくらいで、その中から首尾良く上物を選び出すということは、専門の技術者であってもそう簡単ではないかもしれません。
ましてや我々のような素人がアタリを引き当てるのは相当な難事業だといえるでしょう。

ただ、何事もそうですが、はじめは明確な判断力が持てないかもしれませんが、やはり数をこなしていくうちにだんだんと良否の選別ができるようになっていくものですから、時間さえかけて気長に取り組めば不可能なことではないと思いますね。

しかしスタインウェイなどの中古ともなると、言葉では「数を見ることが大事」などといっても、実際はそう簡単じゃありません。そのへんの中古車店を見て回るのとは訳が違って、至近距離には該当するモノがないのですから、一台二台見るために、とてつもない距離を移動することになりますし、出張のついでにめぼしいピアノ店行かれたり、新幹線や車を使っての長距離遠征もだいぶ敢行されたようでした。

それだけの経験と数を経てこの一台に到達したわけですから、その甲斐もあって、とても良く鳴る健康的で元気のいいピアノです。
しかもこれは、本などにも記されるヴィンテージ・スタインウェイと呼ぶべき戦前のモデルで、人間なら立派に老境に入っているところですが、さすがはスタインウェイというべきか、内外ともにドイツの職人によってまことに美しく、輝くばかりに仕上げられており、古さなどはまったく感じさせません。

さらに驚くべきは、小さいサイズのグランドであるにもかかわらず、出てくる音にも元気と力強さがあって、太くて美しい音が楽々と出てくるのはなにより瞠目させられる点でした。
あまりにも音の勢いが良いので、試しに大屋根を閉めてみたところ、それでも大差というほどの差はなく、さらには上のフタを全部閉めてみたのですが、それでもひるむことなく相当の音量で朗々と鳴りきっているのには呆れました。

ここでしみじみと思ったことは、状態の良い良く鳴るピアノはフタを開けても閉めても、要するに元気良く鳴るものだということで、音に不満がある場合にフタを開けたり閉めたり、あれこれ工夫の必要があるなどは、そもそも基本的な鳴りにどこか問題があるに違いないと思います。
鳴るものはどうやったって鳴るという至極当然の事がわかりました。

ひと月ほど前に戦前のドイツピアノによるコンサートを聴きましたが、そちらも一流メーカーのピアノではありましたが、低音域などは完全に音が死んでいて、ただゴンとかガンとかいうだけでひどくガッカリした印象が強かっただけに、今回のスタインウェイにはまったく驚かされました。
実年齢とは違って、人間でいうと働き盛りの30~40代という感じで、もちろんこちらは完全なオーバーホールがされているということはありますが、それ以上に根本的な品質と設計の違いを痛感させられました。

それにしても、部屋にグランドピアノが鎮座する光景というのは実によいもので、まるきり家の雰囲気がかわったようでした。まさに主役の到来という感じです。
これまで使われたアップライトと向かい合わせに置かれていますが、これからは練習にも身が入ることでしょう。

最後になりましたが、搬入から数日後、正式購入ということになり、晴れてこの家のピアノとなったのでした。

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