意外に慎重派

「NHK音楽祭2011 華麗なるピアニストたちの競演」、第二週は日本人の登場で、河村尚子さんでした。

この人は最近売り出し中のようで、雑誌やCDなどでもしばしばその顔写真を見かけます。
ドイツ仕込みということだそうで、留学経験やミュンヘン・コンクールに入賞するなどの経歴もあり、いわゆるドイツものが得意ということのようです。

オーケストラはマレク・ヤノフスキ指揮のベルリン放送交響楽団で、曲はベートーヴェンの皇帝。
以前も感じたことでしたが、この人のステージ上の所作はあまりマロニエ君は好みません。
どことなく大ぶりな動作や、あたりを睨め回すような表情の連発で、それを裏付けるだけの音楽が聞こえてくるならまだしも、そのいかにも「オンガクしてる」的な動きばかりが目につきますね。

それに対して、演奏はさほど大きさがありません。ときに繊細な情感があって美しいところもあるけれど、基本的には皇帝のような堂々たる曲を、えらく用心深く弾いてしまったのは、その視覚的イメージとはかけ離れた、普通の慎重型のピアニストのひとりに過ぎないと思いました。
見た感じは押し出しのある、アクの強い表情などもするから、相応の迫力でもありそうなものでしたが、出てくる音楽はえらく控え目な、常に抑制された演奏を最後まで通しました。

そのためか、第2楽章などはまるでモーツァルトのように聞こえる場面もあったりで、よほどこの人は安全第一の慎重派らしいということがわかりました。
演奏のクオリティを上げるのは結構ですが、そのための慎重さのほうが前面に出て音楽の醍醐味みたいなものが損なわれるようでは、本末転倒だと思います。本人にしてみれば「音楽を優先した、コントロールの行き届いた演奏」だというのかもしれませんが。

こういう曲の佳境に入ったところに、あえて繊細な表現をしてみせたり、フォルテッシモが交錯するようなところでも、期待に反するような抑えた弾き方をするのは、聴く者をただ欲求不満にするだけだと思いますし、要するに奏者の自信のなさと指が破綻しないための方便のようにしか見えません。

それと気になったのは、この人はよほどリズム感がないのか、大事なピアノの入りのところで何度もタイミングが一瞬遅れるのが目立ったことです。一番多かったのは第3楽章で、あれではオーケストラも丁々発止で乗れないでしょうね。

この曲は、もちろん音楽的に深いものは必要ですが、同時にある程度勢いで前進しなくちゃいけないところもあるわけで、そういう肝心の箇所にさしかかったときにツボを外されたら聴く側の高揚感もコケてしまいます。
オーケストラも開放的な流れを堰き止められて、弱いピアノに合わせながら演奏しているようなところがあったのは、せっかくこれだけの一流オーケストラなのに残念でした。

こういうことを言っちゃ叱られるかもしれませんが、そもそも皇帝みたいな曲は基本的に器の大きな男性ピアニストがオケと互角のやり取りをしないと形にならないところがあるように思います。
逆にシューマンのコンチェルトなどは男が弾くとどうにもサマにならない感じもします。

もちろん例外はあるのであって、リパッティ/カラヤンのシューマンなどは永遠の名演ですけれども。

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