バッハのトッカータ

少し前にバッハの好きな知人から、トッカータのオススメCDはありますか?と聞かれて、はたと困りました。
この見事な作品(BWV910-916)をピアノで録音している人は、実はとても少ないのです。
手持ちのCDを思い浮かべても全7曲となるとグールドぐらいしか思い当たりません。
アンジェラ・ヒューイット(カナダの閨秀ピアニスト)がそのCDを出していることは知っていましたが、ベートーヴェンなどでは表現が単純でややうるさい演奏をするのであまり好きになれず、トッカータも持っていなかったのですが、そうなると妙に聴いてみたくなってつい買ってしまいました。
結果は予想したよりも好ましい演奏でちょっと意外でした。

この人は近年ではファツィオリを使うピアニストとしても有名なので、ピアノはてっきりそうだと思い込み、録音でバッハなどを弾くにはまあそれなりの音ではあるなあと感じつつ聴いていたら、ライナーノートをよくよく見てみるとスタインウェイであることがわかり、これにはちょっとびっくりでした。
それは、近頃のスタインウェイにはあまり見られない濃厚な色彩を放つ音がしていたからで、そのあたりはファツィオリのお得意のところだろうと思っていたのですが、スタインウェイにもこういう音を求めて実現させているところをみると、これが彼女の求めるピアノの音なのだということがわかりました。

なんにしろ、明確な音の好みと要求をもった人というのは一貫性があり、その点ではたいへん立派だと思いました。

あらためてボリュームを大きくして耳を澄ませて聴いてみると、響きの特徴やなにかが紛れもないスタインウェイであることがすぐわかりましたが、やはり予断を持つということはとても危険だと思いました。

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