ピアノ五重奏の夕べ

福銀ホールで、珍しいコンサートに行きました。
3人の地元のピアニストがウィーン・ラズモフスキー四重奏団を相手に、それぞれドヴォルザーク、シューマン、ブラームスのピアノ五重奏を演奏するというもので、この3曲はこの形体で演奏できるまさに三大名曲といってもいいもので、いわばピアノ五重奏曲の三役揃い踏みといったところでしょう。

お三方ともみなさんよく練習されており、とても整った演奏だったと思います。
福銀ホールの良好な音響と相まって充実したコンサートだと思いましたが、強いて言うなら、このカルテットの演奏は達者だけれども多少荒っぽく強引な面があり、それぞれのピアニストと本当に協調的な演奏をしたとは思えませんでした。
とくに前半のドヴォルザーク、シューマンはそれぞれに良いところがあったのですが、ピアノはそれほど強い指をした演奏というわけでもなかったところ、弦の4人がやや手荒とも言える調子で音楽を押し進める点があったのは、いささか残念でした。

音量の点でもヴァイオリンの二人などは、まるでソロのように遠慮無く鳴らしまくったのが気に掛かり、ピアノが弦楽器の陰に隠れんばかりになっていたのは、自信の表れかもしれませんが少々やりすぎでしょう。
多少指導的な気分も働いての結果かもしれませんが、音楽…わけても室内楽はバランスが崩れると聴く側も快適ではないので、いやしくもウィーンを名乗るのであればそのあたりはもう少し配慮が欲しいものです。
どうかすると弦の音だけで少々うるさいぐらいになる瞬間がありましたが、それでも全体としては歯切れ良くスイスイと前進する佳演だったと思います。

この夜の白眉は、後半の管谷玲子さんのピアノによるブラームスのピアノ五重奏曲で、これは実に見事でした。
テクニックも音楽性も他を圧倒するものがあり、ブラームスの情感をたっぷりと深いところから味わい尽くせる演奏で、これだけの演奏はめったにないものです。
思いがけない感銘を受けることになりました。

とりわけ感心したのは、自己表出よりも終始徹底して音楽に奉仕する演奏家としての謙虚な姿勢が明確で、その深みのある雄弁なピアノにはさすがのカルテットもやや襟を正さざるを得なかったようで、より音楽的な姿勢を強めて演奏していたと思います。この曲ではまったく自然なかたちでピアノが中心に座っていました。
管谷さんのピアノはやわらかな楷書ように清冽で、作品を広い視点から余裕を持って、確かな眼力によって捉えられていると言えるでしょう。
けっして目の前のことに気をとられて全体を見失うことがなく、常に腰が座っていて、しかも必要な場所でのしっかりとしたメリハリもある演奏には思わず唸りました。

ピアノの音色にもこの方独特のものがあって、芯があるのにやわらかい温もりがあって、それがいよいよブラームスの音楽を分厚く豊かに表現するのに貢献していたのは間違いありません。

つい音楽の中に引き込まれて集中していたのでしょう、この曲はほんらい長い曲なのですが、実際よりうんと短く感じてしまいました。逆に退屈すると、短い曲でも長く感じるものです。

終わってみれば、固まったように聴き入っており、こういう演奏に接することはなかなかありません。
本当に才能のある、器のある方だと思いました。

不満タラタラな気分を引きずりながら帰途につくことの多いコンサートですが、めずらしく良い音楽を堪能した気分で、心地よく帰宅することが出来ました。

ピアノ五重奏の夕べ」への1件のフィードバック

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    こんばんは アメバブログのゴットマムといいます。

    菅谷さんへの好評ありがとうございました。ぜひ、私のブログで
    リンクさせてください。
    よろしくお願いいたします。

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