ハンマーのサイズ

日曜は、知り合いのピアノ工房でディアパソンのリニューアルが完成したということでお招きを受け、遊びに行きました。

さらには、今年の9月に帰朝された福岡出身の若いピアニストの方がおられるのですが、その方がこのHPを見てくださっている由で、以前からメールのやり取りなどをしていたところ、教室用のグランドをお探しとのことで、ちょうど同じ日に同じ工房へ行くことになり、現地ではじめてお会いすることになりました。

ご両親といっしょに一足先に来られていましたが、目指すピアノはとても気に入られたような気配でした。
ほんの少しでしたがバッハ、ベートーヴェン、ブラームスなどを弾かれていましたが、これから先、教えることやコンサートなど、徐々にその活動範囲を広げて行かれるようです。
来年はリサイタルなどもされるようで、新しい才能が楽しみです。

さて、ディアパソンはこの工房らしく予定通りにつつがなく仕上がっているようでした。
弾いてみて、何かがもう一つという印象もなくはなかったものの、曰く、弦を張り替えて間もないことと、新品ハンマーを整音をしたばかりなので、もう少し弾き込まれて馴染んでいくとまた変わってくるとのことでした。
開花を待つばかりの芍薬の花のようなピアノでした。

驚いたのは、ここにある非売品のカワイの古いセミコンの変身ぶりでした。
いぜんから柔らかく懐の深い響きで美しい音を出すピアノでしたが、ここのご主人によれば、自分の勉強や試行錯誤のためにハンマーをいじりすぎたとのことでした。
というのも、商品のピアノではそうそう思い切ったことはできないので、そういうことは非売品の自分のピアノでいろいろな試みや勉強をしておられるわけです。そして勉強というのは「壊してもいい」というような限界にまで迫らないことには本当の意味での有益な経験にはならないと思われます。

このピアノのハンマーは、以前一度新品に交換されて、それから何年も経っていなかったのですが、その間にあれこれと整音の実験などを繰り返されたようで、それでついにハンマーの寿命が尽きたようでした。

そのぶん、そのハンマー一式からここのご主人は多くのことを学ばれたようで、新しいハンマーをつけたカワイはまさに一変していて、弾くなりアッと思うほど驚きました。
いままでのやわらかさは土台にあるものの、あきらかに艶と輪郭のある、色っぽい音を出すように生まれ変わっていました。

ハンマーはヘッドの大きさ、シャンクの材質などによって重さが異なり、それによって音色はもちろん、パワー感や音色、タッチの重さまであらゆることが変わってくるようで、そこは「何を求めるか」によって使うハンマーも微妙に変わってくるようです。

細やかなタッチやコントロール性を重視するのであれば、若干小さめ軽めのハンマーを使うことで弾きやすさを実現する、あるいは大型のハンマーならより力強い深い音が出せるというメリットもあるようで、そのへんの判断は実に悩ましい選択のようです。
車のタイヤやオイルのようにパッと交換できならいいでしょうが、ピアノのハンマーは一度取り付けると、普通は10年20年という長い付き合いになりますし、しかもある程度ピアノの個性も決定するので、これは重大です。

スタインウェイなどでも、ここ最近は演奏の俊敏性を優先させて小さめのハンマーが使われているといわれますが、たしかに昔のようなパワーと深さみたいなものはありません。
もちろんピアノの性格は他のいろいろな要素の集積によって決定されることで、たんにハンマーの大小だけでは片づけられることではありませんが、すくなくともハンマーのサイズもその要素のひとつであることは間違いないようです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です