音色のひみつ

ヤマハが発行する月刊の小冊子『ピアノの本』を読んでいると、小特集「ベーゼンドルファー音色のひみつ」というのがありました。
簡単な歴史からはじまり、現在もいかに少数のピアノを丁寧に作り続けているかということを説明しています。

ベーゼンドルファーの最も特徴的な面として、木の使い方を挙げていました。
通常は響板のみに使われるスプルースを支柱や側板など、木全体の実に8割にわたりこれを使うとのことで、全体を共鳴体として作り上げるのだそうです。しかもその使い方が独特で、加工する際に無理な圧力をかけて湾曲させるなどせず、削る・接着する・積み重ねるといった木材にストレスのかかりにくい工法がとられているとあります。
ちなみにスプルースは、マツ科トウヒ属の常緑針葉樹で、軽くて弾力性に富み、きめが細かく、加工性に優れているという特徴があり、ピアノだけでなく弦楽器にも使われる、楽器造りには欠かせない素材です。

そんなスプルースをこれだけ多用するということが、ベーゼンドルファー特有のとろみのある優雅な響きを作り出すことに貢献しているのだろうと思われますし、世界広しといえども、これほどスプルースにこだわってピアノを作っているのは、マロニエ君の知る限りではベーゼンドルファー以外にはないように思われます。

ただし、スプルース材を多用したからといって、それが即、より良いピアノになるということではなく、そこにはベーゼンドルファー特有の優れた設計があってのことであるのはいうまでもありません。
逆に木材は適材適所に性質の異なる木を使い分ける方が良いという考えのメーカーも多いはずで、これは一概に良し悪しが決められることではないと思いますが、少なくとも他社では主に響板にしか使わない木を支柱やボディにも使うというのは、単純に贅沢な感じではありますね。

さて、気になったのはグランドピアノの場合は290、225、200、170、という4モデルで現在も100年以上前の設計をほぼそのまま踏襲していて、「これはつまり100年前にこれ以上手の加えようがないところまで改良され尽くしたということ」と主張していますが、その一方で、注目すべき点もあるのです。
というのも、近年はベーゼンドルファーのラインナップにも無視できない変化があらわれてきており、この4モデルの間に位置するモデル、つまり280、214、185はまったくの新設計のモデルということはあまり語られません。

マロニエ君が好きだった275なども、すでにカタログからは姿を消してしまっています。
上記の言葉通りであるならば、「これ以上手の加えようがないところまで改良され尽くした」ピアノを、敢えて新設計のピアノにモデルチェンジするのは矛盾している気がしますが、やはりそこにはいろいろな諸事情があるのだろうと思います。

それは、一説には時代が求めるだけのパワーの増強と、同時に、さしものベーゼンドルファーといえどもコストダウンという、時代が要求する二つの目標を達成するという狙いがあるとも聞こえてきます。
だとしたら、残りの4タイプもこの先、順次生まれ変わるということが予想されますし、今のラインナップはこの点でいかにも不自然で、大きい方から旧・新・旧・新・旧・新・旧というアーキテクチュアの異なるピアノが交互に並んでいるのはなんとも不思議で、これではお客さんも単純にサイズで決めるわけにはいかなくなり、大いに戸惑うのではないかと思います。

マロニエ君からすれば、サイズよりも設計理念の違いのほうがよほど大問題という気がしますが。

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