ポーランドの若手ピアニスト、ミハウ・カロル・シマノフスキのピアノリサイタルに行きました。
本当を言うと、この人の演奏が聴きたかったというよりは、会場の福岡国際会議場に一度も行ったことがなかったので興味があったことと、さらにはこの日の調律は、我が家のピアノを調整していただいている調律師さんが担当されるということで、会場見物とピアノの音を聴くために出かけて行ったようなものでした。
福岡国際会議場というのは博多駅から海に向かって一直線に行ったところの、博多湾のウォーターフロントに位置する比較的新しい施設です。
すぐとなりにはバレエやオペラなどの大きな出し物の多いサンパレスホールがあり、さらにそのとなりはつい先日まで大相撲の九州場所が行われていた福岡国際センター、逆方向に行くとさらに規模の大きなマリンメッセ福岡があるという、いわば福岡の大型の催し物エリアというべき場所なのです。
やや離れた場所には、なつかしい福岡市民会館もあり、昔はここにどれほど足を運んだことかと思い出されますが、今はクラシックのコンサートなどはほとんどなく、芸能関係等のイベントが行われていないようです。
その中で、マロニエ君は唯一、福岡国際会議場には行ったことがなく、この建物の中に足を踏み入れたのはこの日がはじめてになりました。いつも車の窓越しに見るばかりでしたが、実際行ってみると思ったよりも大きく、大小のホールや会議場が何層にも折り重なるえらくご大層な施設で、用途の大半は学会などの由ですが、会場のメインホールとやらは玄関からはずいぶん距離のある3階にありました。
ここは1000人ほどを収容するホールですが、いかにも多目的に仕様を変えられる作りのようで、この日はコンサート用にステージ奥には反響板などがそれらしく組まれていたものの、どこか薄っぺらで、使用目的に応じて変更自在なステージパターンのひとつにすぎないという印象は否めませんでした。
聞くところでは、さらに奥のスペースと合体させると3000人収容の大会場にもなるのだそうで驚きです。
シートに座った感触じたいは悪くないものの、やけに肘掛けが大きく、逆にシートそのものの幅が狭くて窮屈だと思ったら、なんと肘掛けの内部には折り畳み式のテーブルが格納されており、そのせいでシートがいくぶん狭くなっているようですが、もう少し余裕がないと太り気味の人などはかなり難しいでしょう。
こんな仕掛けひとつとっても、ここがいわゆる普通のホールではなく、あくまで「会議場」であることがわかりました。
そういうわけで、基本的にはコンサートとはあまり縁のないような施設ですが、ちゃんとここ専用のスタインウェイのDがあり、遠目に見た限りではほとんど使われていない感じのピアノで、新しい感じのきれいなピアノでした。
この施設の竣工と同時に収められたピアノで、調律師さん曰く、普段ほとんど使われていない「眠っているピアノ」だそうで、たしかに本来の輝きがまだ出ていない感じではありましたが、それでもこの調律師さん独特の調律の形になっているところはさすがだと思いました。
調律というのはある程度聞き分けができるようになると、それぞれの個性があるのはピアニストに個性があるのと同様です。この方は海外での経験も長いコンサートチューナーなので、我が家になんぞ来ていただいているものの、これが本来のお仕事というわけです。
ところで、この日のピアニストの名がシマノフスキとは、まさにあの作曲家と同じで、作曲家はカロル・マチエイ・シマノフスキ、この日のピアニストはミハウ・カロル・シマノフスキで、あまりにも似すぎた名前なので、もしかしたら末裔か何かだろうかとも思いましたが、プロフィールにはそれらしき文言はなにも見あたらなかったので、たぶん違うのでしょう。
若干23歳の若いピアニストでしたが、良くも悪くもとくにこれという強い印象はありませんでした。
危なげなく指の動く、今どきのピアニストでステージに立つような人なら、まあこれぐらいは弾くんだろうな…という感じでした。
人前でリサイタルをするぐらいの人は、技術的に安定して曲が弾けるのは当然としても、さらに聴いた人の心に何かを残すような演奏ができないことには、本当の音楽家とは言えないかもしれません。
音楽そのものに込める表現性やメッセージ性がという点で、今の若手はその面が弱いのは時代の特徴のようです。