オダブツ寸前

週末は久しぶりに知人に会いました。
この方はずいぶん長いお付き合いになるピアノ好きの方で、昔は関西から浜松、東京までピアノ屋を巡って一緒に旅行したこともあり、最近会うのは久しぶりでした。

技術者肌で機械ものにも詳しいので教えてもらうことが多いのですが、話題は自然とパソコンのことになりました。
マロニエ君は基本的にパソコン関係がてんでダメなので、普通の人なら常識といえるようなことでも、いまだに知らないことだらけですが、これはいまさらどうしようもないようです。

それでいろいろ聞いていると、とんでもないことを言われました。
「ハードディスクは必ず壊れる。数年使っていると悪夢は必ず来る。それも本当に突然だから、努々バックアップはとっておくように!!」というものでした。
パソコンがいつか壊れるのはわかっていましたが、パソコン内にあまり大量のデータを抱え込むのがいやなので、マロニエ君は外付けのハードディスクを使っているのですが、何の根拠もなしにこっちはそうそう壊れるものではないというふうに勝手に思い込んでいたのです。ここがまずひとつ、おバカな点であったようです。

氏曰く、「外付けだろうと、内蔵だろうと、とにかくハードディスクというものは必ず壊れるものだということを忘れちゃいけない」という思わず心臓がキュッと締まるようなアドバイスをもらいました。
しかも、もともとこの方、とっても優しい穏やかな人なのに、この点を言うときはえらく強い調子で言われたのが印象的でした。
この方はIT関連の会社経営者ですが、仕事でもあるぶん、過去にはずいぶん苛烈でショッキングな経験もいろいろされているようです。

「ふうん…」と思って帰宅して、それから自室のパソコンを見て思い出したのですが、そういえば10日ほど前にこの外付けのハードディスクがえらく調子悪くなっていて、機械の内部でもコットンコットン音がしていて使えないことがあり、おかしいなぁ…と思ったりしていたことを思い出しました(この悠長さが自分でも驚きます)。
で、さっきの話が気になって、そのHDの様子を見てみると、なんとこれが全く反応しなくなっている。反応しないというのはつまりパソコンがまったく認識しないということです。

何度やってもダメ…。そしてさっきの話…。
だんだんイヤな気分になってきて、何度も挑戦するもののダメ。20回ぐらいトライしても反応ナシで、そのころにはじっとりとした脂汗が顔といい髪の毛の中といい、猛烈な勢いで広がっているのが自分でわかりました。
再起動しても、コードを抜き差ししても、何をやってもダメで、咄嗟にその知人に電話しようかと思いましたが、彼はホテルで何かの会があるといって一時間ほど前にそこで降ろしたばかりでしたから今電話するわけにも行かず、仕方がないから購入店に電話したのですが、土曜の夜で売り場が混み合っていて、お店から折り返しかけ直してくることに。

電話を待つ間にも何度もやっていたところ、あきらかに今までに聞こえなかった音がしています。やがて少し反応が出てきたようでしたがやはりダメで、神仏に祈るような気分で何度かやっているうちに、なんと念が通じたのか、ついによろよろと認識しました。
このときは、さすがにもう大声で叫びだしたいほど嬉しかった。

そんなときに販売店から電話があり、経過を説明すると、電話だけでは断定的なことは言えないとしながらも、「とにかく認識している間に、一刻も早く中のデータを別の場所に移してください!」という「厳命」が下りました。電話の向こうでも少し口調が焦っているのがわかり、これはやはり大変なことらしいというのがわかります。

それからは、おっかなびっくりしながら、ただひたすら中のデータをDVDにコピーする作業に没頭しました。
コピーするだけとはいうものの、ここにはくだらない旅行写真から仕事上の大切なデータ類まで、ありとあらゆるものが膨大な量入っているわけで、これをコピーするというのも気が遠くなるようでしたが、とにかくやらなくちゃいけないという危機感に突き動かされて、高鳴る動悸を抑えながらこれをひたすら続けました。

HDのほうは、要するにオダブツ寸前のご様子ですから、途中でポンと事切れたらそこで終わりでしょう。
結果的に10枚近いDVDに5時間ほどかけてコピーができあがりました。
ホッとひと安心というか、これができなければこれまで10年ほどかけて蓄積されたいろんなデータや資料が、一瞬にしてパアになったかと思うと鳥肌が立ってしまいます。

コンピュータの世界はこれだから、便利と引き換えに冷酷で大嫌いなのですが、だからといって今どきパソコンなしで生きていけるはずもないし、まあ今回はすんでの所で助かったことを神様仏様に感謝して、今後はより強い自覚を持っていなくてはいけないようです。

なによりも感謝すべきは、この日マロニエ君に強い調子でアドバイスしてくれた知人で、彼に会わなかったらこんな確認はしなかったし、ごくごく近い将来、何かの拍子にすべてのデータを喪失していたことだろうと思います。
これだけでも、この日、彼に会った甲斐があったというものです。

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