コンサートを振り返る

ぶーたんの今年9月以降、ざっと思い出してもピアノがらみのコンサートだけで8回ほど行ったことになりますが、今後はもう少し数を減そうと思っていつつ、とりあえずちょっと振り返ってみました。

《9月3日 横山幸雄》
宗像ユリックスハーモニーホールでのレクチャー&コンサート。せっかくのレクチャーがほとんど聞き取りのできないボソボソとした張りのない話し声だったのは甚だ残念。大勢の前でピアノのレクチャーをするのなら、それにふさわしい語り口と内容であるべきではと思った。後半のコンサートではホールのベーゼンドルファーとスタインウェイを弾き分けるという面白い趣向は楽しめたが、演奏は全般的にドライであざやかな事務処理のようだった。

《9月29日 フィリップ・ジュジアーノ》
市内某所でのプライヴェートコンサート。コンサートは会場や使用楽器に負うところも大きいという問題を痛感。彼なりの誠実な演奏だったのだろうとは思うが、真の魅力はまったく伝わらない。やはりこういう人はもう少し持てる翼を広げるだけの諸条件が欲しいことを痛切に感じる。余興だかご愛嬌だか定かでないが、ピアノ以外のズブの素人の演奏まで登場したのは驚きだったし、どうしようもなく痛々しかった。

《10月8日 川島基》
久々の福銀ホール。カワイ楽器が主催であるだけに、シゲルカワイ(SK-EX)を持ち込んでのコンサート。演奏は小品では素晴らしいものがあったが、大曲になるとやたらと飛ばしまくる傾向があるのには疑問。技巧的な部分はより速く通過することが価値ではない。よいところがある人だと思ったので、もう少し落ち着いて音楽に心を通わせる落ち着いた演奏家になってほしい。ピアノは画竜点睛を欠く状態というべきか。

《10月14日 近藤嘉宏&青柳晋》
前半は二人のソロ、後半は2台ピアノによるリスト編曲のベートーヴェンの「第九」だったが、ほとんどこれを聴くために行ったようなもの。偉大な作品は演奏形態を変えても偉大さは変わらないことに大いに感激する。かなり入魂の演奏だった点は評価したい。同じメーカー、サイズ、製造時期のピアノだがあまりにも個性が違うことに驚かされる。技術者も同じだから、意図的に楽器の性格を変えているということなのか…。

《10月24日 クシシュトフ・ヤブウォンスキ》
いわゆる洗練されたショパンとは対極にある、ポーランドの旧式なショパン演奏。というのも現在の若手はポーランド人でもずいぶんメンタリティが異なってきており、この人ももはや旧世代のようだ。いかにも名のあるピアニストらしい重戦車のような圧倒的なテクニックには素直に感激する。表情は温和だがグランドピアノが小さく見えるような偉丈夫であったことも印象的。

《11月8日 ラズモフスキー弦楽四重奏団&管谷玲子》
8回の中では、マロニエ君がもっとも感激したコンサートで、管谷さんのブラームスのピアノ五重奏曲はしなやかで気品とメリハリが両立した名演だった。賭け事にハマる人の心理は、勝ったときの快感が忘れられないのだそうだが、コンサートも同様ではないかと思われる。これぞという演奏に行き当たったときの快感が、また無駄なコンサートに足を運ばせるのだろう。それだけの感銘を覚える演奏だったということ。

《11月12日 田澤明子&西村乃里》
お二人(ヴァイオリンとピアノ)とも確かな技術に支えられた、きわめて誠実な演奏だったが、演奏よりは会場とピアノに大いに疑問の残るコンサートだった。せっかくの瀟洒な音楽ホールであるにもかかわらず、響きが文字通りゼロで、むしろ壁という壁は音を吸い込むように作られているらしい。ピアノも超一流品だが意図的に響かないようにされた?不思議な調整で、ともかくも不思議ずくめの空間。

《12月1日 ミハウ・カロル・シマノフスキ》
福岡国際会議場というコンサートが本領でない、大規模で立派だけれども文化の香りのない、文字通り「会議場」でのコンサート。若いポーランドのピアニストはむろん立派な腕前があり、それなりに弾いてはいたが音楽の核心には未だ迫りきれなかった。聴き手の心に食い入ってこない器用なばかりの演奏は、この人に限らない若い演奏家の今後の課題だろうか。ここに棲む、時を寝て過ごすばかりのスタインウェイも気の毒。

こうして振り返るとやれやれという印象です。
コンサートというのは、本来は音楽を聴いて楽しむため、目の前の演奏を通じて喜びの瞬間を得るために、わざわざ時間を割いて出かけていくわけですが、現実はとても疲れてしまって、帰宅したときはいつもヘトヘトです。

開演前から延べ2時間以上(どうかすると3時間)、狭い座席に身じろぎもできずに固定されて坐骨は軋み、目は疲れ、耳や神経は演奏に集中させられるわけで、コンサートという言葉の響きとは裏腹に、心身共にけっこうハードな状況に置かれて後悔することも少なくありません。
義務でもないのに、我ながらまったくご苦労なことです。

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