加湿なう

ピアノの管理で一番大切なことは何かといわれたら、やはり日頃の温湿度管理で、ピアノが暮らす毎日毎日の環境がいかなるものであるかということに尽きるような気がします。

どんなに名器を購入しても、どんな名人に調整をしてもらっても、ピアノを置いている場所の、日々の環境が好ましくないものであるならば、コンディションは坂道を転げるように低下していくものです。
ところがこれがなかなか理解されないようです。

世の中には立派な家を建て、経済に余裕のある趣味人は私的なホールまで建てて、そこに素晴らしいピアノを買い込むところまではされる方があるのですが、そこかはじまる毎日の管理ということになると、それを深く理解し実行している人のほうが圧倒的少数だというのが実情のようです。

それは、ひとつにはピアノが繊細な楽器だということが頭ではわかっていても、その楽器をどちらかというと家具などと同じような感覚で分類しているのではないかと思います。
第一そのほうが何事においても都合がいいからで、毎日使う場所ならともかく、普段使わないような空間を、ただピアノだけのために空調管理するのは、使わない水を流しっぱなしにするようなもんで、なかなかできることではありません。

そこでマロニエ君は、ピアノという楽器を半ば植物のように捉えるといいのでは?と思います。
もちろん目に見えて芽が出たり萎れて枯れたりということはありませんが、この植物をイメージして内部で同様の様々な変化が起こっているぐらいのことなら、なんとか想像できなくもないでしょう。

さて、一年の大半で活躍している我が家の除湿器ですが、さすがにここ連日のような寒波の到来でヒーターの活躍が甚だしくなると、湿度はついに40を切ることがしばしばになりはじめました。
「これはまずい!」と思って加湿器を出そうとしましたが、古い大振りな加湿器を引っぱりだしてくるのも気が進まず、とりあえず量販店で安い小型の加湿器を買ってきました。

ピアノの場合、湿度は高いほうばかりが問題にされることが多いようですが(日本では)、乾燥のし過ぎは、多湿よりも実は被害が大きいといわれます。
さすがにフェルト関係は大丈夫でしょうが、一番の懸念は響板で、乾燥しすぎるとここに深刻な影響を与え、最悪の場合、割れたりすることもあるといいますからある意味、多湿より恐ろしいですね。

ピアノにとって最悪なのは床暖房などというように、一番の敵は過乾燥で、この点は人の肌のコンディションと同じですが、ピアノの響板はまさか保湿クリームを塗るわけにもいきませんから、やはりよほどの注意が必要だと思われます。

というわけで、このところ毎日、加湿器の水を補充するのが日課になってしまいました。
家人などは、日ごろマロニエ君が除湿でわあわあ言っているかと思ったら、今度は一転して加湿機を買い込んできたりして、しかもそれらはいずれも人間のためでなく、もっぱらピアノのためである点に呆れ果て、「よくまあ、お世話が行き届きますねぇ」などとからかわれています。

からかわれようと皮肉られようと、なんのその、こればかりは自分が気になるものだから、いちおう一生懸命やっているところですが、それで人間様の快適と肌のケアも兼ねられればせめてもの救いです。

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