レオンハルトとワイセンベルク

ついこの間、一世を風靡したピアニスト、アレクシス・ワイセンベルク(引退していた)が亡くなったということを耳にしたばかりでしたが、昨日の朝刊ではチェンバロ&オルガンの大物であるグスタフ・レオンハルトが亡くなったというニュースを目にしました。

マロニエ君は、もちろんこのレオンハルトのCDなどはそれなりに持ってはいますが、取り立ててファンというほどではありませんでした。
それはあまりにも正統派然としたその演奏や活躍の立派さ、存在そのものの大きさのイメージが先行して、音楽を聴くというというよりは、まるで石造りのガチガチの荘重な門の前に立たされているようで、それ以上の何かしら意欲がわく余地がなかったように思います。

しかし、彼はピリオド楽器による演奏の推進者でもあり、ひとつの流れを作った一人だと言わなければなりませんし、なによりバッハを中心とする演奏活動の数々、録音、さらには教育に果たしたその功績の大きさは計り知れないものがあったと思います。
バッハなどのCDでは、誰の演奏を買って良いかわからないときは、ひとまずレオンハルトを買っておけば間違いない、そんな人ですが、あまりにそうであるがためにちょっと個人的には引いてしまった観がありました。

バッハといえば、ワイセンベルクもロマン派の作品などをクールに演奏する傍らで、バッハはかなり盛んに取り上げた作曲家でした。
むかし実演も聴きましたが、当時としては先進的でテクニカルな演奏をすることで頭角をあらわし、そのいかにも男性的な風貌と剣術の遣い手のようなピアニズムは時代の最先端をいくものでした。

いかにもシャープに引き締まったその演奏は、それ以前の名演の数々を古臭いと思わせる力があり、同時にそは賛否両論があったと思われます。

一切の甘さとか叙情性を排除した、モダン建築のような切れ味あふれる演奏は一時期かなりもてはやされて、ついには日本のコマーシャルにも出演するほどのスター性を兼ね備えた人だったことを思い出します。

マロニエ君が子供のころに聴いたリサイタルでは、地方公演にまで古いニューヨーク・スタインウェイを運び込んでの演奏会だったことは、今でも強く印象に残っています。
プログラムはバッハやラフマニノフを弾いたことぐらいで具体的な曲目は思い出せませんが、背筋をスッと伸ばして、どんな難所やフォルテッシモになっても、まったく上半身を揺らさないで微動だにせず、スピードがあり、どうだといわんばかりにカッコ良く弾いていた姿が思い出されます。

久々に彼のバッハを聴いてみましたが、ちょっと聴いているのが恥ずかしくなるようで、まるでむかし流行したファッションをいまの目で見ると思わず赤面するような、そんな気分になりました。
まあこれも、いま振り返ると「時代」だったんだと思います。

音楽的にはなんの共通点もない二人の歳を調べてみると、レオンハルトは83歳、ワイセンベルクは82歳と、まさしく同じ世代だったことがとても意外でした。

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