マロニエ君の自宅のとなりの家には一匹のチワワが飼われています。
このチワワはちっちゃくてとても可愛らしいのですが、その見た目とは裏腹に性格はおそろしく獰猛で、何に対してでもことごとく攻撃的で、まるで荒れ狂う武者のような気性をむき出しにするのにはいつもながら呆れてしまいます。
あれでは本人(犬)も気分的にさぞ大変だろうなと思うほど、始終ありとあらゆることに怒りまくっていて、常に本気で、歯をむき出しにして怒りも露わにギャンギャンガウガウ唸ったり叫んだりで、その忙しいことといったらありません。
ネコよりも小さな体ですが、それはもう大変な迫力で、さすがに恐いです。
自分の十倍もある大型犬を見つけても悪態の限りを尽くすように吠えまくり、全身は怒りにわなないて毛並みは荒れて、ネズミ花火のように地面を転げんばかりです。
そのチワワ、ある時期とんと見かけなくなった時期がありました。
しばらくして事情を聞いたところでは、なんと足を骨折して動物病院に入院していたのだそうで、それも二階のベランダから自分で転落したとのこと。
いかに小さなギャング犬といえども、それは可哀想だと思っていると、その転落の顛末がまた驚きでした。
隣の家は二階のベランダにたくさんの植物がおかれていて、奥さんが水をやっているときも、その周りで絶えず道路の往来には神経を尖らせていて、マロニエ君も歩いていて何度頭上から罵声を浴びせるように吠えかけられたかわかりません。
まして犬が通りかかろうものなら、それこそ火のついたような怒りを爆発させていたようですが、あるときその興奮があまりにも苛烈を極めたようで、勢い余って自分から下へ転落したのだそうです。
ここまでくればそのチワワ君の怒りも、ほとんど命がけです。
しばらくするとめでたく退院したようで、またその姿を見るようになり、マロニエ君としては「やあしばらく」という気分でしたが、さて、性格のほうは一向に変化の気配も見られず、あいもわらずこちらを見るや眉間にシワを寄せてひっきりなしにガルルと威嚇してきます。
この家の奥さんがいつもリードをつけて散歩させていますが、そこに人や犬が近づこうものなら、ほとんど後ろ足の二足歩行になるほど興奮して怒りだして敵意むき出しになりますから、さすがの犬好きなマロニエ君をもってしてもこのチワワだけは恐くてまだ頭を撫でたこともありません。
同じ犬種でも、知り合いのピアノ工房にいるチワワは、いつも不安げに目を潤ませて見るからに弱々しいタイプで、ちょっとした物音にも反応して脱兎のごとく逃げていきます。抱き上げると体が小刻みに震えており、やたらビクビクして恐がり屋のようです。
もしかしたら、お隣の年中怒っているチワワもあれは臆病故かもしれず、あんがい根底にあるものは同じなのかもしれません。だとしたら性格の違いで、その表現方法がまるで正反対ということですが、激しく怒る方がはるかにストレスや消耗が多いだろうと思うと、ふと人間も我が身を反省させられるようです。