あるヴァイオリンの本

最近また、1冊のヴァイオリンの本を読みました。

ヴァイオリンビジネスで成功した日本人が書いた本ですが、敢えてタイトルも著者の名も書かないでおきます。
というのも、読んでいるあいだはもちろんですが、読了後の印象、つまり読み終わってからの後味があまりいいものではないかったからです。
食べ物がそうであるように、この「後味」というものは、その本質を端的に表すものだとマロニエ君は思っています。化学調味料などを多用した料理は、口に入れたときは美味しく感じても、だんだん様子がおかしくなり、後味の悪さにおいて本性をあらわします。

ヴァイオリンの本というのはけっこう面白いので、マロニエ君はこれまでもだいぶあれこれの本を読みましたが、でもしかし、なんとなく執筆者に対する印象が良くない割合がやや高いように思っています。
それは、どんなに御託を並べても、結局ヴァイオリンという特殊な高額商品を使って普通の人間の金銭感覚からかけ離れた、かなり危ないところもある商売をして生きている人達だということが根底にあるからだろうと思われます。

この人達は、どんなに美辞麗句を並べようとも、甚だ根拠のあいまいな、虚実入り乱れる、ヴァイオリンビジネスの荒海をたくましく泳いでいる強者なのですから、そこはやむを得ないことなのでしょう。
もちろんビジネスで成功するのは結構なことですが、ヴァイオリンビジネスはかなり怪しい要素も含んだしたたかなプロの、しかも特殊な専門家の世界で、昔の言葉でいうなら「堅気」のする商売ではないという印象を持つに至りました。

とりわけこの本は、自分の成功自慢の羅列のような本でした。
音楽どころか、まったくヴァイオリンや楽器といったものとは何の関わりもない所にいた人が、ふとした偶然からこの世界に入り、一気にこのビジネスの花を咲かせるにいたるほとんど武勇伝でした(もちろん本人の資質と努力もあるでしょうが)。

とりわけ後半は自己啓発本の様相を帯び、お金の話ばかりに終始するのには閉口させられました。
それも一般人とはかけ離れたケタの数字がページを踊り、毎月の家賃が100万、銀行への返済額も毎月2000万などと、こういうことばかりを書き立てながら、一方では信用や出会いといった言葉が乱舞します。

販売と並行して、買い取りもやっているとのことですが、これも著者に言わせれば「縁切り」ということをしてあげるのが自分の務めだとして、有無をいわさず即金で買い取るのだそうです。
そのためにはかなりの資金も必要だそうですが、大半は所有者の期待を遥かに下回る価格になる由。
率直に言って、ほとんど○○○の世界だと思いました。

即金で買い取るのは、ヴァイオリンを手放す人のいろんな未練や迷いが起こる時間を与えないように、その場で極力短時間で買い取ってしまうという、なんとも冷徹な世界だと思います。
しかも手放す人はたいてい事情のある弱い立場ですから、きっと思いのままでしょうね。

株や不動産ならともかく、ヴァイオリンような小さくて美しい楽器がこういう取引の対象になっていることは、薄々感じてはいましたが、現実社会のやりきれなさを思わずにはいられません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です