ベルリンのハプニング

昨年大晦日のベルリンフィル・ジルヴェスターコンサートがBSのプレミアムシアターで放映されました。
以前は大晦日の夜中に生中継されていましたが、最近はないなあ…と思っていたところでした。
もしかすると生中継のほうは他の有料チャンネルかネットなどでやっているのかもしれませんが、そのあたりはとんと疎いマロニエ君にはわかりません。

会場は「カラヤンサーカス」の異名を持つベルリンフィルハーモニーのホールで、今回はエフゲーニ・キーシンをソリストに迎えて、グリーグのピアノ協奏曲がメインであったほか、前後にドヴォルザーク、グリーグ、ラヴェル、ストラヴィンスキー、Rシュトラウスなどの管弦楽曲が取り上げられました。
指揮は当然のように首席指揮者兼芸術監督のサイモン・ラトルです。

このベルリンフィルのジルヴェスターコンサート、いつごろからか映像には女子アナ風の司会がつくようになり、演奏の合間の折々にその女性が会場をバックにおしゃべりをします。
ドヴォルザークのスラブ舞曲、グリーグの交響的舞曲に続いてグリーグのピアノ協奏曲が始まりますが、その際にもこの女子アナ(たぶんドイツの)が出てきてキーシンのことなどペラペラしゃべっているとき、画面の脇でおかしな事が起こっているのに気付きました。

背後に映り込んだステージ上では、予めそこに置かれていたピアノのフタを開けるべく、体格のいいおじさんがでてきて前のフタを開け、つづいて大屋根を開けようとしますが、さてこれがどうしても開かないというハプニングが起きました。
そのおじさんは、何度も腰をかがめてはヤッとばかりに力を込めるのですが大屋根は頑として開かないので、ついには会場からどよめきの混じった笑いまで起こりましたが、それに刺激されて焦ったのか、おじさんはいよいよ力を入れたらしく、勢い余ってピアノ本体の位置までずれてしまいました。
それでも依然として大屋根は開きません。

これにはわけがあって、スタインウェイはじめとする多くのコンサートグランドでは、運搬時に大屋根がふいに開かないようにするためにL字形の金具が装着されており、それがかけられていることは見ていてすぐに察しがつきました。ボディ側面のカーブのところにそのための丸いテニスボールぐらいのノブがついているのでご存じのかたも多いと思いますが、このおじさんはそういうことがまったく分かっていない気配でした。

女子アナはこの異常に気付いたようでしたが、チラッと後ろを振り返りつつ自分のトークを続けます。その間もフタは開かずに、ついに様子がおかしいと察した他のスタッフが駆けつけてきて、ようやくノブが回されたようで、ここで大屋根はやっと開いてめでたしめでたしでした。
しかし、舞台奥へ向かってややずれてしまったピアノの位置を元に戻すことはされないままに…。

たぶん興奮していて、そんなことには気付きもしなかったのでしょう。
ほどなくキーシンが登場。彼は気の毒にもこの位置のままで演奏しましたが、それはそれとして、まことに筋目のよい美しい見事な演奏でした。

それにしても、これがもし日本だったら、ピアノの管理を含めた準備や設営などは、臆病なぐらい丁寧の上にも丁寧に行われるはずで、フタの止め具の事も知らないような人間が本番でひょこひょこ出てきて、力任せに開けようとするなどはちょっと考えられない事だと思いました。
何事においても真面目で整然として、高いクオリティで鳴らすドイツといえども、このような未熟なハプニングが起こるわけで、逆にいえば日本人のキメの細やかさこそ例外なのかもしれません。

さてその止め具は金属ですが、おそらくあれだけ男性の体力で猛然たる力を何度もかけられたら、それを取りつけられている土台はボディ側も大屋根側も木なので、とくに大屋根側などはそれなりの損傷があるかもしれません。あーあ。

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