過日、広島まで行ったついでに、浜松ピアノ社を訪ねました。
街の中心部である本通という広島一番の繁華街のど真ん中で、いかにも老舗然とした感じの佇まいでした。
人通りの多い外の賑やかさとは一転して、店内に入ると楽器店特有の落ち着いた空気と静寂がたちこめています。
一階と二階にはスタインウェイをはじめ、輸入物を中心とした珍しいピアノが所狭しとならんでいるのは圧巻ですし、今回は行きませんでしたが、さらに上階にはスタインウェイのDを備えた小さなホールもあるようです。
運良くここの社長さんがおられ、来意を告げると快く店内を案内してくださいました。
一階は普通のスタインウェイのB型と、同じくB型でありながら、ボディのデザインはスタインウェイの創始者であるハインリヒ・シュタインヴェクがアメリカに渡る前のドイツ時代に完成させたピアノを模したものになっており、これはなんと世界に5台ほどしかないという稀少品でした。
中は10数年前のB型だそうで、フレームなども現行品と同じものでしたから、普通のスタインウェイとして使える上に、古色蒼然としたその造形を楽しむことができるようです。
店内中央にある螺旋階段を上ると、チッカリングの古いグランドや、木目のボストンのグランドが二台、それに他店ではまず見ることのできないエストニアなどが展示されていました。
エストニアは以前も書いたことがありますが、旧ソ連時代に自国のピアノとしてソ連中で親しまれたブランドですが、ペレストロイカ以降はエストニアが主権国家として独立します。もともとこの国の名を冠したメーカーですから、必然的に現在はロシア製ピアノという位置付けではなくなったようです。
社長さんはどのピアノも「どうぞ弾いてみてください」と言ってくださいますが、マロニエ君はなかなか弾くことができない性分で遠慮していましたが、このエストニアだけはかつて一度も触ったことがなく、実物を見たのさえ初めてで、こればかりは湧き起こる興味を抑えることができずに、ついにちょっと弾かせていただくことになりました。
まず印象的だったことは、とても良く鳴るパワーのあるピアノだということ。
この日あったのは奥行き168センチのグランドでしたが、とてもそんなサイズとは思えない迫力がありました。
見ると、鍵盤の両脇も幅が広く、中低音弦が張られるお尻の部分も普通のピアノよりずいぶん幅広になっていて、人間で言えば「安産型」の体型とでもいうのでしょうか。
ともかく全体に横幅が広く取ってあるために、当然ながら響板の面積も普通の170センチクラスのグランドよりかなり広いものになっていると思われます。
音はいわゆる都会的な音とは違い、味わいのある実直な音色で、いわゆる洗練されたピアノではないけれども、そのぶん深く心に訴える非常に魅力のある音だと思いました。
とはいってもペトロフほど泥臭くもなく、しぶさと素直さのある、とても好ましい音色だという印象でした。
それでいて基本的によく鳴るし、弾いていてとても心地よいピアノで、いかにも良い材料を使ってつくられたピアノだけがもつ楽器としての豊かさがあったように思います。
素朴だけれどしっかりダシのきいた料理みたいで、こういうピアノはマロニエ君はとても好きです。
ここの社長さんはマロニエ君と同年代だと思われましたが、とても親切で、本当にピアノが好きな方という感じでした。また機会があればぜひとも再訪してみたいものです。
とても素敵なお店でしたし、こういうピアノ店が地元にある広島の人達がとても羨ましく感じながらお店を後にしました。