中国はいまやピアノ&ピアニスト大国という一面を持っているようです。
おそろしく指がまわるという意味では、ユジャ・ワン、ラン・ランをはじめとする現在の中国勢は圧倒的なものがあると思われ、指芸人とでもいうべき運動能力と、その鍛えられたメカニックという点では大したもんだと思いつつ、どこか上海雑技団的すごさしか感じられず、マロニエ君としては音楽家本来の価値と存在理由を感じさせる人は、これまでの中国人ピアニストではほとんどいなかったというのが偽らざるところでした。
すくなくともその人によって奏でられる音楽に耳をすませ、心を通わせたいと思わせるピアニストは、マロニエ君の趣味に照らしては、中国人ピアニストには該当する人がいないというのが率直な印象です。
ところが過日のBSプレミアムで放映されたニュウニュウの演奏は、そういう中国人ピアニストへのイメージを払拭させる、初めてのものだったのは嬉しい驚きでした。
佐渡裕指揮の兵庫芸術文化センター管弦楽団の演奏会で、ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第1番とラフマニノフのパガニーニの主題による狂詩曲の2曲を演奏しましたが、知的で品がよく、すみずみまでキチッと神経の行き届いたまったく見事な演奏で、音楽的にもマロニエ君の知る限り稀有な中国人ピアニストだと思います。
ニュウニュウは以前このブログで書いた「ピアノの島」があるアモイ市の出身のようですから、まさに出るべき場所から出た天才だということなのかもしれません。
12歳のときに録音したショパンのエチュードは、ピアノの状態も録音も優れない上に、演奏自体もやや若さにまかせた未熟さが感じられてもうひとつ感心しませんでしたが、あれからわずか2年、音楽的にもすっかり深まりを見せていたのは、いかにこの少年が着実な成長をしているかということを物語っているようです。
これら2つのきわめて技巧的な曲をまったく危なげなく、豊かな音楽性にあふれ、しかも知的な抑制もきいた演奏をしたのは、これまでの中国人とは一線を画したクオリティの高さだったと思いました。内容のある演奏をする人にふさわしく、その演奏時の雰囲気や凛々しく引き締まった表情にも、いかにも内側から滲み出るものが溢れ、ただのびっくり少年とはまったくわけが違います。
しかも彼はまだ14歳!なのですから、その天才ぶりも第一級のものでしょう。
この歳にして、彼は極めて高い集中力を保ちながら、演奏を通じて音楽そのものに一途に奉仕している姿が非常に印象的でした。
その類い希な天分もさることながら、彼を教える教授陣の優秀さも証明されているようです。
ニュウニュウの秀演とは対照的に、兵庫芸術文化センター管弦楽団というのは初めて聴きましたが、今をときめく佐渡裕氏のタクトをもってしても、力量不足は覆いようもなく、ニュウニュウが弾いている以外の曲になると、申し訳ないけれどもちょっと聴こうという意欲が湧きませんでした。
冒頭のプルチネルラ(ストラヴィンスキー)も、こんな踊りと勢いにあふれた曲なのに、活気も喜びもなく、どうしようもなくテンションが落ちてしまうのはなんとも残念でした。
というわけで、ひたすらニュウニュウひとりを聴くためのコンサートだったようで、今後おおいに注目すべきピアニストの一人にリストアップすべきだと思っていた矢先、今年の夏には福岡でもリサイタルをするようで、ぜひ聴きに行きたいものだと思っています。