値下げ品争奪

土曜の午後、行きつけのスーパーに食料品の買い物に行ったときのこと。

精肉売り場の前にある、割引品のコーナーに商品が多数投下されて、販売員の女性が割引の赤いシールを貼り始めました。はじめは誰もいませんでしたが、シールを貼り始めたのを察知してか、一人の女性が近づいてきてその大きなボックスを物色しはじめました。

すると一人、また一人と人が寄ってきて、あたりはたちまちちょっとした人だかりができました。
集まってきたのは全員が女性でしたが、シールを貼っている店員さんは、あっという間に両側をお客さんに挟まれて、その人達があまりにもゴソゴソと商品を物色するので、作業さえスムーズにできない状態に陥ったのです。

とくに最近の特徴だと思うのは、それがスーパーであれデパートであれ、ふつうのお店でもそうですが、人の身体の前に手だけをぐーっと伸ばして目指す物をゲットするというやりかたです。
これまでなら、人が何かを見ていれば、とりあえずその人がいる場所は暫定的にその人の空間となり、そこから何かを取りたいときは、その前に人がいなくなってから手を伸ばすというのが暗黙のマナーのようになっていたように思いますが、ここ最近はこの良き習慣はまったく失われたように思います。

人がいようがいまいが、自分が欲しい物がそこにあれば横からぐいぐい手を伸ばして、取りたい物をガッツリ取るということで、これは本来あまり愉快ではない行為だと思いますが、個人の問題ではなく、風潮としてみんなが当然のようにやり始めますから、とてもじゃありませんがかないません。

さて、そのスーパーの精肉割引品のコーナーはというと、その女性店員の前には無数の「手」が上下左右から伸びてきてゴソゴソうごめいているサマは、反対側から見ると、ほとんどヘンタイ的な動きに見えてしまいました。
しかも不気味なことは、これだけ人がいて、みんな必死に値下げ品を物色しているというのに、人の声とか笑顔というものがまるでなく、ただただ無言でラップで覆われた商品がプチプチゴソゴソと触れ合う音だけが静かに聞こえてくるということです。

どの人も、一様に競争心もあるのか大真面目な表情をしていて、こういっちゃなんですが、人間はとても浅ましい生き物だということを如実に見せつけられるような気になって、つい見物してしまいます。
もちろんマロニエ君とて、値下げ品でも処分品でも、あれば喜んで手に取ってみるし、それを買って得したと思うこともしばしばですが、あの無言の争奪戦みたいな状況、ピリピリした緊張にあふれるあの動物的な感じだけはちょっとついていけませんし、この状況の中へ敢えて自分も身を投じる気にはなれません。

いつごろからかは知りませんが、日本人は昔以上に暗くて陰気な民族になり果てたような気がします。
ネットやテレビなどでは、みんないかにも明るく立派なことばかり言いますが、その実、我欲はますます先鋭化されて、そのための勝負心はより白熱したものであることをひしひしと感じるのは、これこそ社会の光りと陰のような気がします。

尤も、ある人に言わせると、人の内面が時代とともに荒れ果てて汚れているからこそ、上辺の言葉は立派なことばかりいうのだそうですが、たしかにその心理構造も納得させられます。

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