格闘技系?

岡田将ピアノリサイタルに行きました。
福岡の出身、名前は以前から聞いていて、テレビで少し演奏に触れたことはあったものの、実演に接するのは今回が初めてでした。

曲目はベートーヴェンの月光ソナタ、ショパンの3つのマズルカ作品50、バルカローレ、リストの超絶技巧練習曲から1、2、4、5、8、ハンガリー狂詩曲第2番、アンコールは愛の夢と英雄ポロネーズというものでした。
当初は超絶技巧練習曲は全12曲が予定されており、マロニエ君としてはこれが目的で行ったようなものでしたから、曲目の変更を知ったときは大きく落胆しましたが、まあそれは仕方がありません。

岡田氏はテレビではしっかり感のある技巧派という印象があり、実際にも背丈などはそれほどではないものの、がちっとした体型と存在感のある人で、徹頭徹尾、予想以上に重量級のエネルギッシュな演奏を繰り広げました。

第1曲の月光第一楽章の出だしからして、ちょっと粗いなぁという印象があり、ちょっと自分の趣味ではないことにまずは戸惑いましたが、聴き進むうちにこれはこれでこの人の在り方なんだということが分かってきて、それなりに楽しんで聴ける自分を取り戻すことができたように思います。

とりわけ後半のリストは、いかにもこの日のメインという風情で、かのリスト本人のコンサートがそうであったように、あまりに凄まじい熱演に弦が切れるか、ピアノが壊れてしまうのではないかというような地響きのするようなフォルテッシモの連射で、いやはやその技巧と体力だけでも大したもの!という感じでした。

ピアノの演奏芸術を聴くというよりは、ほとんど格闘技でも見ているような感覚で、フェイスもややそれ系の印象がありますね(笑)。まさにオトコのピアノでした。
何事も中途半端はいけませんが、ここまでいくと何か突き抜けたものがあり、そのパワフルな演奏を単純に楽しむことができたのは自分でも不思議に笑ってしまいました。
なんというか、別の感覚でステージを楽しんだという点では退屈もせず、妙な疲労感も覚えず、愉快に帰ってくることができたわけで、こんなコンサートもあるのかとひとつ感心させられました。

最近の世の中は、何事にも元気のない、しょぼしょぼしたものばかりしか見あたりませんが、そんな中で久しぶりに景気のいい、どえらいものを見せて聴かせてもらった気がしました。たしかに音楽的には異論反論はありますが、単純にあのパワーと元気は人を快活にするものがあり、昨今の淀んだような病的な空気ばかり吸っていると、なにか無性に溜飲が下がる思いでした。

お客さんを率直にこういう気分にさせるという点では、岡田氏もさすがは福岡の出身なのかと思えるようで、妙にもってまわったような暗くて意味深な演奏をしたり、だらだらとおざなりなトークで時間稼ぎするようなこともなく、話もサクサクと短かめ、演奏も明快な豚骨味みたいな率直さで、まるで美味しい街の定食屋で餃子や揚げ物などしこたま食べて満腹したような心地よさと爽快感がありました。

このコンサートの主催が日本ショパン協会九州支部(たしか事務局がカワイの中にある)だったためか、ピアノはあいれふホールにわざわざシゲルカワイのEXを持ち込んでの演奏会で、思いがけずあいれふホールのあの独特な強い響きの中でSK-EXを聴く機会に恵まれたわけですが、どう聴いてもマロニエ君の好みではありませんでした。

これは、この日一日だけの印象ではなくて、ホールやピアノ(もちろんピアニストも)が変わってもカワイピアノに共通した印象があって、コンサートで聴くカワイの一番の問題は、音に深みと色気がないこと、別の言い方をすると音に収束性がないことです。
大味で透明感がなく、どこか雑然と割り切ったような音しかしないのは、まさに味のない日本車みたいで、カワイのファンとしてはこれは非常に残念なことだと思います。

家庭用サイズではかなりの高みに達しているかに思えるSKシリーズですが、ことコンサートグランドに関しては、残念ながら及第点に未だ到達せずという印象は拭えません。
これは早急になんとか手を打って欲しいところです。

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