きのうデュカスのピアノソナタのことを書いたついでにちょっと調べていると、なかなか面白いことがわかりました。
彼はパリ音楽院の先生もしていましたが、作曲の講義でソナタについて、次のようなことを述べていました。
『この形式に近づく上で困難なことといえば、衒学的なソナタに陥らないこと、もったいぶった断片や、それだけがピアノから飛び出してきて、これぞテーマだと声高に告げるようなテーマを書かないことだ。けれどもある種のスタイルは持ち続け、さらに胡散臭い断片にはまらないのが重要でさる。そこがむずかしい。退屈させず、それでいて安易で投げやりなところのないこと。』
これは、演奏する側にも十分あてはまり、初心者や学習者は別としても、奏者が高度な演奏を心がければ心がけるほど、上記の説はとくに留意すべき点だと思います。
つまりやり過ぎは逆効果、バランスこそが肝要ということです。
わざとらしい様式感の誇張や、テーマや断片を執拗に追い回すような演奏は、本人は専ら高尚で深みのある芸術的演奏をしているつもりでも、聴いている側には説教じみた、音楽の全容の俯瞰や流動性を欠いたものに陥りやすいものです。そういう批評家から点がもらえることを前提にした欠陥演奏に対する警鐘のような気がします。
往年の巨匠達の奔放で大胆な自己表出はすっかり否定され、分析的なアカデミックな演奏が今日の主流をなしていますが、こういう流れをデュカスは100年前に予見していたように感じます。