ポリーニの今

先日BSプレミアムシアターで放映されたティーレマン指揮のドレスデン国立管弦楽団と共演したポリーニの映像はちょっと衝撃的でした。
曲はブラームスのピアノ協奏曲第1番。

まずなんといっても、あのポリーニがこれほど歳をとって、どこからみても完全なおじいさんになっていることでした。
舞台袖から出てくるときの歩き方や、表情なども、もうすっかり変わってしまいました。
人間は老いるのは誰しも当然ですが、若き日のいかにもピアノ新時代のヒーロー然としたイメージが強烈だったポリーニ、ひとつの時代を作り、既成の価値観さえ塗り替えてしまった技巧のピアニストが、加齢によってここまでになるのかと、さすがにちょっと悲しくなりました。

老人といっても、彼は1942年生まれですから、たかだか70歳なわけで、いまどきこの年齢ならもっと若々しくしている人も多いし、たとえばアラウやルビンシュタインの70歳なんて最盛期だったことを思うと、ポリーニの衰えにはどうしても衝撃という言葉が浮かんでしまいます。

身体もずいぶんちっちゃくなってしまって、大柄なティーレマンと一緒に登場するとほとんどポリーニには見えませんでしたし、所作のすべてがお年寄りのそれでした。
もしかしたらなにか深刻な病気でもしたのかもしれません。

昔のポリーニといえばグールドと並んで、その椅子の極端な低さは有名で、求める「低さ」のためにはポールジャンセンの立派な椅子の足を下から数センチ、惜しげもなく切り落としてしまうことで、その異様に低い椅子に腰を下ろしては、あの圧巻きわまりない演奏をしていたものです。

ところが近年はだんだんと椅子の位置が高くなってきており、これも体力低下の表れかと思っていたものでした。とりわけこの日のブラームスでは、ランザーニ社のコンサートベンチをかなり上まで上げているのは我が目を疑うほどでした。たまたま我が家にもまったく同じものがあるのですが、マロニエ君の3倍ぐらいの高さで、ほとんど小柄な女性並みの高さなのには、これが歳を取ったとはいえ同一人物だろうかと思わずにはいられませんでした。

演奏も相応の衰えはありましたが、それでもなんとか立派に威厳を持って弾き終えることができたのは、さすがに長年のキャリアだなあと思わせられるところです。
やはり老いても天下のポリーニだと思うのは、明晰な美しい音、適度に重厚、適度にスマートで、気品があり、終わってみればやはりそこには一定の満足感を覚えるところでしょう。

ピアノはポリーニ御指名のファブリーニのスタインウェイでしたが、ポリーニの好みにきちんと調整された、やはり通常のスタインウェイとはちょっと違う色彩感に富むピアノだったと思います。

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