車とピアノには共通するところがいろいろありますが、このところ感じているのは次のようなことです。
どちらも酷使すればそれだけへたって消耗してしまうし、逆に使い方が足りないと力がなくなり、いろいろな動きや反応が鈍くなって、たちまち精彩を失ってしまうということ。
この数日、仕事上、天神で美術関係の小さなイベントをやっていることもあり、普段よりなにかと車に乗る機会も増えていますが、そこに折良く一連の整備が完了したマロニエ君の古女房ともいうべきフランス車を3日ほど集中的に使ってみました。
この車はふだんあまり積極的に乗ることはないし、乗ってもたいがい近い距離を行って帰ってくるだけというパターンが多かったので、これだけ集中して続けざまに乗ってみるのは本当に久しぶりでした。
すると2日目の後半ぐらいから、あきらかに乗り味が変わってきました。
全体がこなれて、サスペンションの動きもより細やかで滑らかになるし、エンジンパワーの出方もより緻密さを増してレスポンシブになり、3日目には別の車のようにたおやかで軽く乗りやすくなりました。そうなると相乗作用で、こちらももっと乗りたくなるわけです。
この好ましい状態を維持するには、(きちんとした整備をした上で)いろんな部位の動きが硬化しないインターバルでしばしば車を無理なく動かすことに尽きると思います。逆に言うと、勤め人で平日はまったく車に乗らず、週末にだけ乗っているというパターンの人も多いことだろうと思いますが、こういう乗り方では、いつも車は本領を発揮しないままに終わってしまい、その車が本来もっている本当の良さはあまり感じないままということも少なからずあるように思われます。
まったく同様なのがピアノで、普段ほとんど弾かれないピアノというのは、本来の調子を出すには一定の弾き込みが必要になります。さらにピアノは、弾き込みと併せて調律などの調整が必要となり、その調整と楽器の鳴り出すタイミングをピッタリとベストにもっていくのは車よりもかなり至難の技だと思います。
もっとも典型的なのが出番の少ないホールのピアノで、ふだん何ヶ月も眠っているようなピアノを、急に楽器庫から引っぱり出して本番の数時間前に調律しても、とても本調子を取り戻すには至りません。
ここがまた車と似ていて、ピアノの場合も、最低でも2、3日かけて適度に弾き込みをやったら見違えるようになると思いますし、当然ながらもっと長い周期でやればさらに好ましい結果が出るはずです。
逆にわずか1日で本調子に持っていこうというのは好ましいことではなく、あまり拙速にガンガン動かしたり弾いたりしても望むような結果は得られないと経験からも思います。そこは決して無理をせず、少しずつ時間をかけて目を覚ませていくのが何よりも大切で、いわば解凍技術の差のようなものだろうと思います。
長いこと休養していたアスリートに、いきなり「明日試合に出ろ!」といって鬼のごときトレーニングをしても無理なのと同じです。
マロニエ君が好きなのは、自分のピアノをピアニストなどにある程度弾いてもらって、そのあとに「いただきます」とばかりに弾いてみるときで、大抵ワッとびっくりするほど良く鳴る状態になっているものです。まさに全身が暖まってパッチリ目を醒めしている状態です。
これにもまた、車にも似たところがあって、そこそこ飛ばして走ってきた高速道路を降りた直後に、一般道に出て信号停車などのあとでスッといつものようにアクセルを踏んだときの、その反応の鋭さ、力強さ、軽快感は、近所のお買い物ドライブなどでは到底味わうことのできない、まさに性能が出尽くしているノリノリの状態で、これは結局われわれ人間の身体や健康にもおおいに通じるものがあるようです。