グランドピアノはアップライトにくらべると決定的に不便な点があるものです。
それは楽譜立てを使うには大屋根の前の部分を、後ろに向けてヨイショと開ける必要があり、これをしないとその中にある楽譜立てを使うことは出来ません。
その点では、大半のアップライトは鍵盤蓋の内側に小さな楽譜立てがあるので、ひょいと指先でそれをひらいてそこに楽譜を置けば済むわけですし、しかもこちらのほうが楽譜を置く位置が低く、見ながら弾くという動作にはより自然な態勢が取れるのです。
その点グランドは、ちょっとした一手間があるわけで、これが意外に面倒臭いわけです。
とくに弾き終えたとき、不精者のマロニエ君などは、楽譜を全部閉じて、ピアノから片づけて、譜面台を倒して、元ある場所に押し込んで、さらには開けた大屋根の一部を手前に向かって閉めるという一連の動作は、ついついサボりがちになってしまいます。
だいいちそのままにしておいたほうが、またいつでも練習再開できるし、なにかと都合がいいわけです。
しかし同時に困ることもあるわけで、それはピアノの内部の、大屋根の前部分を開けた一部分にだけ集中してホコリが溜まってしまうわけで、ここにはフレームから突き出た無数のチューニングピン、奥にはダンパー、その下にはハンマーなどピアノの中でもとくに複雑な部分がこれでもかとばかりに集中しています。
これを開けっ放しにするのは、少し程度ならともかく、常時この状態にしておくのは、やはりゴミやホコリの問題を考えるとさすがに躊躇われてしまいます。
ピアノの先生など人によっては、譜面台をピアノから抜き出して、全閉にした大屋根のさらに上にそれを置いて使うというスタイルをとる方も昔からあるのですが、これはでは音は籠もってめちゃめちゃ悪いし、だいいち、ただでさえ高い位置にある楽譜はさらに数センチ上部移動してしまい、マロニエ君などは椅子が低めなこともあって、とてもじゃないですが楽譜が見づらくて仕方がありません。
そこへアイデア商品というわけで、ホコリ防止のためのボードのようなものを楽譜立ての下一面にセットするものがあるようですが、実はまだ本物を見たことがありません。
問い合わせをしたところでは、実はこれには2種類あって、透明のアクリル板でできたものと、黒っぽい木製風のボードがあるようで、中が透けて見えるのがいいのか、黒い板で覆ってしまうのがいいかは好みの問題のようです。
ただし最大の問題は、ホコリ防止には役立っても、副作用として音の響をかなり阻害するわけで、そこがネックとなって実はまだ購入していません。譜面立ての前後のちょっとした位置や角度の差でも音質はかなり変わるのに、ここを一面すっぽり板で覆ってしまうことによる響きの弊害はいかばかりかと思わずにはいられません。
なぜ少しでも音響面を考慮した製品にしないのかが疑問です。
できたらここに薄い布を貼ったようなホコリよけがあればいいと思うのですが、そういうものは一向に見かけたことがありません。誰かが開発したら、これこそ購入したいところです。