福岡市南区にある瀟洒なギャラリーを兼ねたホール、日時計の丘でおこなわれた望月未希矢さんのピアノリサイタルに行きました。
曲はバッハのフランス組曲第6番、ベートーヴェンのピアノソナタ第31番ほか。
望月さんのピアノは決して力まない自然体が身上で、清流が静かに流れ下るような演奏が印象でした。冒頭のバッハから羽根のように軽い響きの織りなす美しい音楽が会場を満たし、バッハの作品をこれほど幸福感をもって弾けるのだということを初めて体験したような気分になりました。
この小さなホールのいつもながらのふわりとした美しい響きと、1世紀を生き抜いて尚現役として音楽を紡ぎ続けるブリュートナーの美しい音色にもいまさらのように深い心地よさと覚えました。
ブリュートナーとバッハは、ライプチヒという共通項で結ばれているわけですが、なるほどこのピアノはバッハを弾くには最良の楽器のひとつと言えるのかもしれませんし、実際に耳で聴いてもそう感じずにはいられないものがこのピアノの中には密かに息づいているようでした。
バッハでは旋律にふっくらとした輪郭線が表れ、ベートーヴェンではときにフォルテピアノを思わせるものがあって、その音を聴いているだけでも飽きることがありません。
上部の窓から入る自然光がやわらかに会場を明るく照らし出す中を、心地よい音楽に包まれながら、ときに木の床を伝わってくるピアノの響きの振動が足の裏にまで伝ってくるとき、まるで自分が鳴り響く音楽の中心に身を置いているような気分になることしばしばでした。
終演後は、この日のピアニストやホールのオーナーや偶然お会いした知人らとしばし歓談して、まことに心豊かな時間を過ごすことができました。
オーナー氏の談によれば、なんでも今年の夏を皮切りに10年間にわたってバッハの鍵盤楽器のための作品の全曲演奏をおこなうという、まことに壮大なる企画が進みつつあるのだそうで、これはまた楽しみなことになってきたようです。
この日は昨年遠方に移り住んだ知人が折良く福岡に来ていましたので、コンサートの後は一緒に行った知人のご自宅へお邪魔して、ご自慢の素晴らしいスタインウェイピアノを弾かせていただきながら歓談して、外に出たときは陽が落ちて真っ暗になっているほど時間の経つのも忘れて長居をしてしまいました。
これでお開きになることなく、さらには食事にまでなだれ込み、尽きぬ話題で大いに盛り上がり、深夜遅くの帰宅と相成りました。
まさに丸一日、ピアノ三昧な一日でありました。