ハンマー実験

約半年ぶりでしょうか、カワイのグランドの調律に来てもらいました。

このピアノ、かねてよりマロニエ君としてはいささか気に入らない点があり、それは奥行き 2m以上と図体はそれなりに大きいくせに音にもうひとつ深みがないということでしょうか。
以前はそれを各所の調整の積み上げによって解決できないものかと考えていましたが、さんざんあれこれやってもらったもののあまり変わらず、要はこのピアノが持っている声の問題だろうということに結論づけて、最近ではほとんど諦めの境地に達していました。

いっそオーバーホールでもして、弦やハンマーを新品に取り替えればまた違った結果もでるかもしれないものの、さすがにそこまでする状態でもなく、いうなればどっちつかずの状況にいたわけです。
通常の調律はともかくとして、マロニエ君がいつも調律師さんにお願いしているのは、専らタッチと音色の問題でしたが、思いがけなくこの点に関して興味深い実験をしてもらうことになりました。

すでに製造から20有余年が経過していることでもあり、とりわけハンマーはとうに賞味期限を過ぎているものと思っていましたが、調律師さんに云わせると必ずしもそうではないらしく、要はこのハンマーのもともとの性格だろうという見立てでした。

さて、その実験というのは、ほぼ新品同様のレンナー製(ドイツの老舗メーカー)ハンマーを持参してくださり、ハンマーの違いでどうなるか、試しにひとつだけシャンクごと取り替えてくれました。
果たして、その音はこれまでこのピアノで一度も聴いたことのなかったような、太くて厚みのある力強い音が現れ、まわりの薄っぺらな音とはまるで違っているのは率直に驚きでした。実際にハンマーのサイズもひとまわり大きいし新しいぶんパワーと柔軟性を併せ持っているのでしょう。
従来どちらかというと音色に明るさのなかったカワイが、この機種からややブリリアントな方向を目指していたようですが、そのためにやや小ぶりで俊敏なハンマーを採用していたらしく、それがマロニエ君の常々感じていた不満に繋がっていたのだと考えて差し支えないようでした。

これにより、とりあえずの問題点はボディや弦ではなく、専らハンマーにあるということが裏付けられたことになりました。予想外の音が出て小躍りしているマロニエ君を尻目に、「じゃあ元に戻しますね」といわれて大きく落胆したのはいうまでもありません。

調律師さんとしては、不満の原因がどこにあるのかを確かめただけでもこのような実験をした意義があったと考えているようですが、マロニエ君にしてみれば味見だけさせてもらって、望外の美味に喜んでいるところでサッとお皿を下げてしまわれるごとくです。

合計4時間に及んだあれこれの作業は終了して帰って行かれましたが、これは悩ましいことになったと思い始めたのはいうまでもありません。

映画『ピアノマニア』でせっかく届いたハンマーが予定していたものより細いので、急遽手配をし直すというワンシーンがなぜかふと頭をよぎりました。

元に戻すのが忍びなかったのか、ひとつだけつけたレンナーのハンマーはひとまず付いたままにしてあります。…いつまでもこの状態にしておくわけにもいきませんけれど。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です